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瀕死の病人
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女性が大声でまくし立てるのをいのりは軽く受け流した。
「もう、うるさいなあ。はいはい、分かった、分かったから落ち着いてってば。健太、とりあえず、私からお姉さんに説明しとくけどいい?」
背中越しにそういのりが訊いてきたので、僕は金田さんを介抱したまま「いいよ。そっちはいのりに任せる」とだけ伝えた。
女性相手にたどたどしく説明を始めたいのりは、初対面の相手でもけっしておどおどしたりはしてなかった。きっと彼女なりにこの場で自分が果たすべき役割を考えて行動しているのだろう。成長、そんな言葉が頭に浮かんできた。
「ううっ」
金田さんが頭を少し動かして、呻き声をあげた。苦しそうではあるが、意識があることがはっきりした。
「金田さん、大丈夫ですか。健太です。話せますか?」
「ううっ」
金田さんは薄っすらと目を開け、僕らの顔を見上げる。だが、喋れるような状態ではないようだ。
「僕がおんぶして家まで運びましょうか」
海原君がすかさず金田さんに声をかけたが、金田さんはゆっくりと、しかししっかりと首を振った。
「えっ、なんですか?」
金田さんが何か言おうとしたので、僕は金田さんの口元に耳を寄せた。
「ここでいい……しばらくここで横になって……」
僕は一旦顔を起こすと、海原君を見て首を振った。
「金田さんの希望はしばらくここにいたいそうだ」
「動くのがしんどいほど苦しいんでしょうか」
「どうやらそんな感じだな。無理して動かさないほうがいいだろう」
「OK。それじゃ、私と健太君でここに残って金田さんを介抱するわ。海原君といのりちゃんは、そっちの彼女を家まで案内してあげて」
陽子さんがテキパキと指示を出した。僕としても概ね異存はない。だが、海原君は気になる点があるようだった。
「僕が残ったほうが良くないですか? いざという時に金田さんを運ぶ必要がでてくるかもしれませんし」
「たぶんそれは大丈夫。おそらくしばらくはこのままだと思うから。それにあの荷物見えてるでしょ」
陽子さんが指差したのは、例の女性と一緒に現れた大きなコンテナ、サイズで言えば一人で抱えられるかどうかといったところだが、その青いコンテナだった。その中には何かの缶詰が山のように押し込まれていた。
「あんな重そうなもの、他に誰が運ぶの?」
「ああ……」海原君はため息をついた。
「これ、みんな鯖缶やん。なんでこんないっぱい」
いのりはタッタっと歩いて荷物に近寄り、コンテナから一つ取り出すと、缶のラベルを凝視した。
「もう、うるさいなあ。はいはい、分かった、分かったから落ち着いてってば。健太、とりあえず、私からお姉さんに説明しとくけどいい?」
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女性相手にたどたどしく説明を始めたいのりは、初対面の相手でもけっしておどおどしたりはしてなかった。きっと彼女なりにこの場で自分が果たすべき役割を考えて行動しているのだろう。成長、そんな言葉が頭に浮かんできた。
「ううっ」
金田さんが頭を少し動かして、呻き声をあげた。苦しそうではあるが、意識があることがはっきりした。
「金田さん、大丈夫ですか。健太です。話せますか?」
「ううっ」
金田さんは薄っすらと目を開け、僕らの顔を見上げる。だが、喋れるような状態ではないようだ。
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「えっ、なんですか?」
金田さんが何か言おうとしたので、僕は金田さんの口元に耳を寄せた。
「ここでいい……しばらくここで横になって……」
僕は一旦顔を起こすと、海原君を見て首を振った。
「金田さんの希望はしばらくここにいたいそうだ」
「動くのがしんどいほど苦しいんでしょうか」
「どうやらそんな感じだな。無理して動かさないほうがいいだろう」
「OK。それじゃ、私と健太君でここに残って金田さんを介抱するわ。海原君といのりちゃんは、そっちの彼女を家まで案内してあげて」
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「僕が残ったほうが良くないですか? いざという時に金田さんを運ぶ必要がでてくるかもしれませんし」
「たぶんそれは大丈夫。おそらくしばらくはこのままだと思うから。それにあの荷物見えてるでしょ」
陽子さんが指差したのは、例の女性と一緒に現れた大きなコンテナ、サイズで言えば一人で抱えられるかどうかといったところだが、その青いコンテナだった。その中には何かの缶詰が山のように押し込まれていた。
「あんな重そうなもの、他に誰が運ぶの?」
「ああ……」海原君はため息をついた。
「これ、みんな鯖缶やん。なんでこんないっぱい」
いのりはタッタっと歩いて荷物に近寄り、コンテナから一つ取り出すと、缶のラベルを凝視した。
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