異世界転移物語

月夜

文字の大きさ
上 下
306 / 319

いのりと僕

しおりを挟む
「こっちの世界じゃそれ以前の問題のような気もしますが」

「農業技術はこの世界では大いに生かせそうだからいいわね。こっちの世界じゃ今のところ、コンピュータの出番はあまりなさそう。理科さんみたいにパソコンでも持って来れたら良かったんだけど」

「僕だって生半可な農業知識しかないから農家さんみたいにうまく野菜が作れるかどうか分かりませんよ。それにこれから物が増えていって、科学とかも活かせるようになればコンピュータが出来るって大きな武器になりますよ、きっと」

 二人の会話を聞いていて、あらためて僕が活かせるものって何だろうか、と考えた。これまで生きてきた人生で身につけたものって何だろう? これといって人に自慢できるような特技もなく、専門知識に長けているわけでもない。目標もなくぶらぶらと流されるままに生きてきたつけが、この世界に来てはっきりした感じだ。

 この世界ではリーダーもどきの立場でいることが多いが、それにしたって資質が本当にあるのかどうかも怪しい。ほかに適役がないからリーダーに祀りあげられてる面も多々あるような気がする。まあ、そうやって自分を卑下していても仕方ないのだけど……。

「健太」

 いつの間にか僕は深い思考の沼にはまっていたようだ。横を歩くいのりがそう呼びかけてきてもすぐには反応出来なかったぐらいだ。

「健太ってば」

「うるさいなあ。呼び捨てかよ!」

「だってもうダチじゃん」

「僕とお前、いくつ離れてると思ってるんだよ!」

「愛があれば歳の差なんて」

「愛なんてねえよ」

「あ、そう」

 漫才のようなやりとりをした後、いのりは急に真面目な表情になった。

「健太、この間はありがとね」

「何の話だ?」

 僕はいのりの深妙な態度を訝しく感じた。

「あたしがいじめのことで取り乱したとき」

「ああ、あのときか」

「健太がさ、ビシッと言ってくれたの、良かったよ。今でも健太が言ってること、正直、全然分かんないんだけど、なんかさ、真正面から向き合ってくれてるのだけは伝わったんだよね」

 いのりの口からそんな言葉が出るなんて思いもしなかった。

「今まで人に相談しても、みんな腫れ物に触るように当たり障りのない返事ばかりだったから……」

 それはそうだろうな。皆、心の中ではなるべく面倒ごとに巻き込まれたくないと思っていたりする。

「他のみんなも真剣に考えてくれて……なんか嬉しかった……」

「おいおい、こんなところで泣くなよな」

 いのりの瞳が潤んで、今にも涙がこぼれそうになっていたので、慌てて僕は茶々を入れた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

処理中です...