異世界転移物語

月夜

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画期的な成果

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 宝泉さんがコウモリ傘を畳み、僕らは帰途についた。道すがらお互いの近況をさらに詳しく語り合い、充実した時間を過ごした。来たときと同様、途中で二泊したあと、僕らは村に帰還した。目的地がはっきりしていたことと、男二人で早歩きで進めたことが幸いして、朝方には村に到着することが出来た。

「おーい!」

 遠くから家の前で修繕用の木材を運んでいた海原君を発見し、僕は大声で叫んだ。

「あっ! 健太さん!」

 僕らに気がついた海原君が手を振った。

「皆さん、健太さんたちが帰ってきましたよ!」

 そのあと、後ろを振り向いて家の中の連中に声をかけている。

 家のそばまで来た頃に、料子さんが家の中から出てきた。

「あら! 宝泉さん!」

「料子さんじゃないですか。これは懐かしい」

「ちょっとびっくりしたじゃない。まさかまた会えるなんて……」

 感動の再会を喜ぶ二人の横で、海原君は顔を青くしていた。

「健太さん、和也さんと理科さんは……?」

「うん。残念ながら途中で消えてしまった。たぶんどこかに転移したんだと思う……」

「あ、そ、そうなんですか……あ、でも事故に会ったとか、病気で亡くなったとかじゃなくてまだ良かったかも。またどこかで会える可能性がありますもんね」

 海原君は一度はショックを受けたようだったが、すぐに前向きな発想に切り替えることが出来たようだった。この世界で暮らしはじめていろいろ耐性もついてきたのだろう。慣れというべきか、たくましさを身につけたというべきか、微妙なところではあるが。

 ほどなく料子さんや安食さん、林さんたちも和也と理科さんの転移を知ることとなった。皆、一様に残念がってはいたものの、この世界の定めというべきものはどうしようもない。宝泉さんが加わったのがせめてもの救いだ。

 昼飯の際、釣りキチさんを除くメンバーが勢揃いして、宝泉さんを交えて色んな話をした。あらためて分かったのは、宝泉さんとの出会いは今までになく画期的な成果だったということだ。これまでの体験を凌ぐ成果といってもいいくらいだ。

 それは何故かというと、宝泉さんたちの村、つまり僕が以前いた村と、この村が同じ世界の同時代に存在していることが分かったことだ。今までは人同士がつながることはあっても、二人ともまた別の異世界に転移している可能性が拭えなかったのだが、今回は違う。

 宝泉さんは再転移を経験していない。にも関わらず僕と出会ったということは、間違いなく同じ世界ということなのである。
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