異世界転移物語

月夜

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「へええ、そうなんですか。スカウトさんにまた逢えるかと思ったのに」

「そうか。確か健太もスカウトさんも最初の頃からのメンバーだったんだよな? そりゃ、一緒に苦労した仲間だからな。逢いたい気持ちは分かるよ」

 宝泉さんは慰めるように僕の肩にそっと手を置いた。

「今では農家さんが植えた野菜も収穫出来てるんだぜ! 量は少ないけどな」

 四苦八苦しながらも農家さんの指示に従って、僕も一緒に育てた野菜たち。あれがもう収穫出来てるのか。美味しく出来たのだろうか。ああ、食べてみたいなあ。なんだかとても時の流れを感じる。

「それはそうと、健太こそ、どうしてこんなところに?」

 今度はこっちが話す番だった。僕は今までの出来事をかいつまんで宝泉さんに説明した。

「なるほどねえ。健太も結構大変だったんだなあ。よく頑張ったよ」

「いや、みんな必死に生きてるのは変わりありませんから」

 お互いの情報を一通り交換し合ったところで、雨が少し弱まってきた。

「さて、これからどうするか? だな」

 宝泉さんがぼそりと言う。

「あの村に帰るんですか? それなら……僕も一緒に連れて行ってもらえませんか」

「それがな……俺は帰る道を覚えてないんだよな。恥ずかしながら」

「えっ、そうなんですか?」

 宝泉さんはバツが悪そうに頭を掻く。

「道案内は仲間に任せっきりだったもんで、まさか俺だけ一人になるなんて想定してなかったつうか」

 いやまあ、集団で行動していればそういうこともあるだろう。宝泉さんのミスだとも言い切れない。

「一応、十日間の予定で新たな村の捜索に出たから今日、ちょうど折り返す予定だったんだけどな」

 奇しくも僕らと同じく、折り返し予定日だったとは。どちらかが一日でも早く折り返していればお互いに出逢うことはなかったことを思うと、奇跡に感謝するしかない。

「来るときに目印はつけながら来たんだが、俺自身がはぐれてしまった上に、どんな目印なのか把握してなかった。だから俺は元の村へは帰れそうにないな」

「それなら僕らの村に一緒に来ませんか。人数にも余裕があるし、和也と理科さんがいなくなったから宝泉さんが一緒に来てくれるとこちらも助かります!」

 宝泉さんはそれを聞くと嬉しそうな笑みを浮かべた。

「それは俺としても願ったり叶ったりだ。渡りに船とでも言おうか。健太の新しい村がどんなところか興味もあるし、そもそも村探しに出たんだから、俺が一番成果を上げたとも言えるかもな。ははは」

 宝泉さんの高笑いが響く。空はもう雨が上がっていた。

「雨も止んだことだし、じゃあ、行くとするか」
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