異世界転移物語

月夜

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ウインダー

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「大学で被害にあったとかそんな話はない?」

「いや、そこまでは。正直なところ不正アクセスを試みられるのは、大学の研究室ならザラにあることで、セキュリティには常に気を使ってないといけないので。実害があれば大問題になってるでしょうけど、噂でもそれはないですね」

「大学ならまあ、そうだよね」

「ただ、陽子さんがさっき言ってた、侵入されたことにさえ気づかせないレベルのアクセスなら見逃している可能性はありますね。僕らもコンピュータは扱いますが、セキュリティのプロというわけではないので、高レベルのハッカーなら太刀打ち出来ないでしょうね」

「そうかもね。ただウインダーが本当に敵なのか、つまり何らかの悪さをするのかどうか、すら分からないのよね」

「データを盗み見る時点で立派な犯罪じゃないんですか」

「まあ不正アクセスと一括りにしちゃえばそうなるけど、問題は何のためにデータにアクセスしてるのか、だと思うのよね。もちろん、データを悪用する方法はいくらでもあるし、犯罪集団なら喉から手が出るほど欲しい情報かもしれない。でも、なんとなく腑に落ちないんだよね……」

「情報工学のプロともあろう人が論理的じゃありませんね」

「そうね。こればっかりは勘。理科さんも同じようなこと言ってたけど、女の勘としか言いようがない」

「使い方間違ってる気がしますが」

「いいの!」

 二人の話している話題は、元々いた世界の話なので、今ここでワーワー言ってても仕方ないと思うのだが、当事者同士だとあまりそれは関係ないらしい。昼間、僕らがエアポケットに入り込んだように前の日本での話に夢中になっていたのは、もしかしたら誰でもそうなりやすいのかもしれないなと思った。

 翌朝、僕ら三人はみんなに見送られつつ、家をあとにした。鬱蒼とした森の中に再び足を踏み入れる。どこまで行っても代わり映えのしないもはや見飽きた光景が続く。善蔵さんの家に行ったときは、一軒家という明確な目的地があったので、進んだ距離の目安になったが、今回はある意味当てのない旅だ。そういう意味ではよりハードなチャレンジかもしれない。

「和也、お前こっちに来てまだそんなに経ってないのにごめんな。あっちこっちに連れ回して」

 善蔵さんちに行くのに付き合わせて、帰ってきたと思ったらすぐこれだ。流石にちょっと可哀想になってきた。

「別に気にしちゃいねえよ。むしろ、森の中を色々動き回ったほうが刺激になって退屈しないさ」
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