異世界転移物語

月夜

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見つけたものと失ったもの

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「どうしたの?」と僕。

「私がちゃんと見てなかったばっかりに食料がなくなっちゃって……」

「優子ちゃんが謝ることないよ。だって盗んだりしてないんでしょ?」

 理科さんの問いかけに桂坂さんはうなずいた。

「あれも不思議な話だよね。まあ現実的に考えれば、関係者の誰かが嘘をついてるっていうのが一番辻褄が合うんだけどね。健太君は嘘をつくような人はいないと見てるんだよね?」

 陽子さんは独自の分析をして、僕に話を振った。なんだか昼間の続きが始まりそうで、僕は少し警戒しながら陽子さんに答えた。

「まあ、それは分かりませんけれど。会ってから数日の人だっていますし、みんなが正直者だって断定できるような根拠は何もないです。でも昼間も言ったように、それはどっちだっていいと思っています」

 陽子さんは僕の答えを聞いて満足そうにうなずく。

「健太君、さっきは庇ってくれてありがとう」

 唐突に桂坂さんが僕に礼を言ってきた。別に庇おうとしたわけではないが、テーマをずらすことで結果的に桂坂さんへの追及を和らげる効果があったのも確かだ。

「いや、たいしたことしてないよ」

「あらら。そういうのは二人っきりの場面で言わないと。まだまだ恋の修行が足りないわね」

「なんの修行ですか!」

 茶化した理科さんに僕は思わずツッコミを入れてしまう。そういう理科さんも果たして恋愛経験豊富かというとぶっちゃけ疑問符がつくような気もするのだが。

「ははは。まあ、でも良かったわね。結局、誰も悲しまなくて。いのりちゃんはつらいだろうけど、本音出せたのは彼女にとってものすごく大きなことだと思う」

 やっぱり理科さんはちゃんと見てる。いのりのことを親身になって考えているのが伝わってくる。

「そうね……。あんな小さな子がこの見知らぬ世界でこれから生きていかなければならないって考えると同情しちゃうけど、一方で、今日のことで一緒にやっていく仲間が沢山いる心強さみたいなものを感じてくれたらいいなあ、なんて思ったりもするんだよね。私、普段、あのぐらいの年代の子とは全然接してないんだけど、今はすごく力になってあげたいなあと思う」

 陽子さんは、今日の事件を通して何か大切なものを見つけたのかもしれない。僕の中でも同様に新たな何かが生まれている気がする。

「きれいな星空だね」

 いきなり思わぬ方向から声がかかった。暗闇の中からそう言いながら現れたのは、予想外の人物だった。

「金田さん!」

 僕はそう呼ぶとともに金田さんを観察した。顔はやつれ、足も腕も少し震えているようだ。かなりふらふらした足取りだ。
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