異世界転移物語

月夜

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重々しい告白

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「そうだね。きっと大人でもそんなに簡単に出来ることじゃないかもしれない。いや、むしろ大人こそ苦手な人が多いんじゃないかな。人間関係もだんだんと複雑になっていくし」
 
 いのりは、ほら見ろ、やっぱりって言いたそうな顔をしている。

「別な見方をすれば社会っていうのはさ、学校みたいな閉じられた空間じゃないから、自分が逃げようと思えばいくらでも楽なほうに逃げられるとも言える。会いたくない人がいれば、あえて会わないようにすることだって出来る。ただし、それ相応の責任を伴うことにはなるけど。だけどね……」

 僕がもう少し話を続けようとすると、いのりが叫ぶように言った。

「学校だっておんなじよ。私、学校行けなかった時期があるもん。そう、不登校ってやつ」

 言動から予想はしていたが、実際に本人の口からそういう話を聞くと、身につまされる思いが湧いてくる。他のメンバーも同じように感じているのか、あえて口を挟む者はいなかった。あの和也でさえ、なんと声をかけていいのか分からないようだった。

「中学校に入ったときは、みんなと同じように楽しい学校生活を夢見ていたんだけど、いつの間にか、いじめられる側になってた。何がきっかけだったのかはもう覚えていないわ。きっと些細なことだったんじゃないかしら。クラスで誰も助けてくれる人はいなくて、先生も全然とりあってくれなくて、私は孤独だった。毎日、学校に行くのが辛くて、ある日、本当に学校に行けなくなってしまったの」

 僕は本当の意味のいじめを身をもって体験してきたわけではない。学校でいじめがなかったわけではないが、幸い友達には恵まれていたほうだと思う。だから、いのりの話に共感出来るなんて軽々しくは言えない。

「学年が進んでクラス替えがあったことで、やっと私は少しずつ学校に行けるようになったけど、あのままだったらきっと私はどうにかなっていたかもしれない。いじめてた子たちも、私が休んでる間に別の方面に関心が移っていったのか、私にはあまり興味を示さなくなっていたんでラッキーだったと思う。きっと私みたいな子どもが日本中に何人もいると思うと、人間てなんだろうな? って疑問に思わずにはいられないわ」

 重々しい告白だが、いのり本人にとってはもう過去のものになっているのか、感情の高ぶりと反比例するように、口調も淡々としてきた。

「だから、健太さんのいうことは理解出来ない。それは、だって、私をいじめてた人たちを許せってことでしょ?」
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