異世界転移物語

月夜

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信念の比重

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「分かりました」

 長い沈黙の後、海原くんが天を仰いで答える。

「たぶん、どっちが正しいとかそういう問題でもないんですね。許すとか許さないってことと、これからどうやって食料を調達するか、を考えるのは全く別のこと。もしかしたら、皆さんはそういうことを僕に教えようとしてくれたんじゃないですか?」

 海原君がそこまで熟慮しているなんて、正直びっくりした。しかし、僕の思いはちゃんと伝わっている。そう思うとなんだか嬉しくなった。

「おそらく」

 釣りキチさんが静かに口を開いた。

「海原君が最初に言ったことはきっと正しいんだと思う。サバイバルってところからは、どう生き延びるかっていうのが最大の目的になるからね。僕らみたいに呑気に構えていたら生きていけない、確かにそうなんだよね」

 釣りキチさんのこれだけ真剣な想いの吐露は初めて聞いた気がする。他のメンバーも黙って釣りキチさんの話に耳を傾けている。

「でもね。僕はやっぱり自分に素直でいたい。正しいとか間違いだとかじゃなくて、自分が本当にやりたいことは何なのかってそれだけ考えていたいんだ。甘ちゃんだと言われてもしょうがない。でも自分に嘘ついてまで生きようとは思わない」

 だんだん熱を帯びる釣りキチさんの言葉に僕は震えた。そこまで信念を抱いていたのか!

「そうね」

 釣りキチさんの話が一息ついた時を見計って、理科さんが話し始める。

「釣りキチさんの言いたいことはよく分かるわ。あたしもそうだもん。自分の信念は曲げたくないな」

「理科さんはどんな信念があるというの?」

 陽子さんが興味深そうに尋ねる。

「そうね。あたしはやっぱり真理の探求かな。今、起こってる現象の解明。そこをやっていきたいって思ってる。もちろん生き続けること前提だけど。そういう意味では犯人探し、広い意味では一体何があったのか、っていうことを調べるのはすごく興味があるんだけどね」

 理科さんの返答を神妙に頷きながら聞いていた陽子さんは、上目遣いで天井を仰いだ。

「理科さんほどじゃないけど、あたしもやっぱり犯人が誰かってことより、起こった不思議な現象のほうに関心があるかな。これは理系のサガみたいなものかもしれないわね」

「二人ともすごいですね。僕なんてとてもそんな風には考えられないな。誰がこんなことをしたんだ!って、ちょっと腹立ってる感じ」

 和也が尊敬の眼差しで二人を見る。

「まあ、いずれにしろ、今の状況でお互いに責め合っていても何も始まらないだろうよ」

 林さんがため息をつきながらつぶやく。
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