異世界転移物語

月夜

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居残りを誰にするか

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「ええと、それじゃあ誰が残る? 料子さん?」

 桂坂さんが投げかける。すると当の料子さんから希望が出された。

「今回は私も行きたいわ。まだまだ力あるし、水の量とか自分で見ておきたいし」

 そうすると、残るのは……

「それじゃ、私が金田さんの看病に残ります。安食さんもいのりちゃんも、理科さん、陽子さんも行ってください」

 桂坂さんが任せてと言わんばかりにはっきり告げた。

「ええと……理科さんとか陽子さんも一緒に行ける? 疲れてると思うけど……」

 僕は桂坂さんの提案には賛成だが、唯一そこが気になっていた。

「ええ。問題ないわ。私も川を見ておきたいし」

「私も同感です」

 陽子さんも理科さんもたくましい。気にしすぎだったようだ。

「それじゃ、今から10分後くらいに、桂坂さんと金田さん以外は容器を持って集合しましょう。それからみんなで川に」

 僕がそう告げると、各自用意に入った。僕も手短に荷物を整理していたが、そこに桂坂さんが寄ってきた。

「金田さんて、こっちに帰ってくるときから具合悪かったの?」

「ああ。善蔵さんちにいて出発する前に、陽子さんが額に手を当てて熱測ったらそのときにもう金田さんの熱があった」

「そんな状態でよく帰ってきたわね」

「だってそのまま残しておくわけにもいかないし。食料とか考えるともう一泊する選択肢はなかったんだよ!」

 僕はつい声を荒げてしまった。

「いえ、責めるつもりはないのよ。うん。わたしでもきっとそう判断したかもしれない。置いて帰ることは出来なかったでしょうね」

 桂坂さんは終始冷静だった。批判されていると勘違いしたのは僕の早とちりだったようだ。

「帰る途中も苦しそうだった?」

「ああ。だから何度か休みながら帰ったよ。みんなで金田さんのペースに合わせて」

「そう……それは賢明な措置だったわね」

 桂坂さんが金田さんの容体にこだわるのは仕方ない。これからしばらく一人で看病しなくてはならないのだから。ただ理由はそれだけではなかった。

「私、なんとなく金田さんの症状が気になるのよね……。いや、根拠とか全然ないんだけど。ただの私の勘みたいなもの。金田さんの病気って普通の風邪とかじゃなさそうな気がする。もっと悪性の何か……」

「悪性って……ガンとか? それとも何かのウイルスとか、伝染病とかのこと?」

 僕は初めて聞いた見解に驚きを隠せなかった。なんとなく、休んでたら良くなるだろう、と根拠もなしに安易に考えていたからだ。

「私に聞いたって分かるわけないわよ。私だってただの素人なんだから」

 やや不愉快な感情を表に出しつつ、桂坂さんが返答をした。
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