異世界転移物語

月夜

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当面の問題

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「あの子は神村いのり、中学生らしいです」

 皆の顔が一斉に少女のほうに向けられたが、驚いたことにいのりが自分から立ち上がって、僕らのほうに自分から歩いてきた。

「神村いのりです。中学一年生です。よろしくお願いします」

 ちゃんと挨拶できるじゃないか。はっきりとした物言いで、おどおどしていたついさっきまでとはまるで別人のようだった。

「ああ、よろしく。私は林。こっちは海原君だ」

「海原荒太。農業高校三年です」

 途端にいのりの顔がほころんだ。なんて分かりやすい性格なんだろう。いのりちゃんのタイプは海原君みたいなのか。海原君はめちゃくちゃイケメンてわけではないと思うが、農業高校だけあって体がガッチリしているからそのあたりが魅力的なんだろうか。残念だったな、和也。

 その後は、初対面同士のやりとりや金子さんの看病など皆おもいおもいの行動をとっていたが、料子さんが急に皆に呼びかけた。

「そういえば、一気に人数が増えちゃったから食料と水が不足してるわ」

「あ、そうか。食料は釣りキチさんの魚でなんとか凌げるとしても水は必要だな」

 僕がそう言うと、海原君が反応した。

「飲み水優先にして、そのほかの用途で使う分は今から川へ水汲みに行ったらどうでしょう?」

「今から?」

 怪訝な顔を浮かべる林さん。陽子さんも事情がわからないので当然質問する。

「川ってここからどのくらい離れてるの?」

「そんなに離れてないです。今から行けば日没までには充分往復する時間はあります」

 海原君は自信ありげに答えたが、料子さんはさらに問題を明かす。

「でも容器があんまりないのよね。小さいのならあるけど」

「あ、私、小さい水汲み道具ぐらいならあるかもしれません」と理科さん。

 そんなやりとりを聞いていた僕は考えた。本来ならこんな時金田さんが取りまとめの役をやることが多かったのだが、今はそれが出来ない状況だ。僕が判断するしかないだろう。

「それじゃ、こうしましょう。誰かが金田さんの看病に残って、他の全員で水汲みに行きましょう。その際、釣りキチさんと合流出来れば一緒に帰ることにして」

「そうだなあ。それがいいかもな」

 僕の提案には林さんが真っ先に賛成してくれた。

「そうね。それぞれで水を汲めば、小さい容器でもそれなりの量になるだろうし」と安食さん。

「私も行きます!」

 神村いのりが前向きなのには少々びっくりした。急に積極的になったな。いや、本来の彼女はこっちの性格なのかもしれない。
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