異世界転移物語

月夜

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老夫婦の行方

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「そういえば、陽子さんがこの家に来たとき、老夫婦を見かけませんでしたか?」

 陽子さんの話が一通り終わったところで、金田さんが尋ねた。

「老夫婦? いえ、私が来たときには誰もいなかったわ。もしかして、この家ってその人たちが住んでるところなの?」

 陽子さんはなかなか勘が鋭い。それには僕が答える。

「そうなんです。でもここ数日、行方不明になってるんですけど」

「どこかに転移しちゃったってこと?」

「その可能性も含めて考えてはいますが、どこに行ったのかはまったく分かりません」

「まあ、そうよね……」

 これだけの会話でなんとなく状況を察した陽子さんはたいしたものだ。

「陽子さんがいた村では、人が消えてしまう、ってことありました?」

「こっちの世界での話だよね。うーん、それはなかったわね。でも自分がいざその状況になったら、なんとなく『ああ、再転移したんだ』ってすぐに分かっちゃったけど」

 僕も再転移を経験しているから、その感覚は分からないでもない。常識的には考えられない出来事であっても、一度似たような体験をしていると、意外とすんなり受け入れられるものだ。

 その後は、理科さんと専門的な内容で会話が弾み、さらに理系である和也も加わり盛り上がっていたが、僕はすっかり蚊帳の外になってしまった。文系の僕には分からないことが多すぎる。金田さんも似たようなものだろう。

「ああ、ええと盛り上がってるところ悪いんだが、日が暮れるまでに周囲の捜索をしたいんだが。善蔵さん夫婦、あ、陽子さんは知らないか、前にここに住んでた人です。その善蔵さん夫婦の消失に関する手掛かりが何か見つけられないかと思って、今日はここまで来たんです」

 金田さんは話の腰を折ったことをやや気にしながら、陽子さんに特に分かるように説明した。

「ああ、そういうことだったの。なんか邪魔したみたいでごめんなさいね。それじゃあ、私も一緒に捜索に加わらせてくれないかな。人が多いほうがいいでしょ」

「それは助かります」

「私、ちょうどこれ持ってきてるし」

 陽子さんがニヤリと笑いながら見せてくれたのは小型の双眼鏡だった。

「見た目は小さいけど高性能なのよ」

「森の中で役に立つのかなあ……」

 和也は懐疑的に見ていたが、まあとにかく道具があることで多少なりとも捜索の効率は上がるだろう。どのみち、今日はもうそんなに時間がとれない。

「それじゃ、とりあえず日没まで捜索するってことで。グループに分かれよう」
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