異世界転移物語

月夜

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嬉しい誤算

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 僕は辺りを見回しながら、神経を研ぎ澄まして声の出所を探った。ほどなく「うーん」と呟く声が微かに聞こえてきた。僕らは顔を見合わせた。

「こっちだな」

 金田さんが先頭に立って、声のした方向に進み、後に僕らが続く。

「誰かいるんですか~?」

 金田さんが木陰に向かって声をかけた。さっきまでは聞き耳を立てるためにみんな黙っていたのだが、よく考えれば大声で呼びかけたほうがずっと早い。

 すると一本の木の陰から女の人が姿を現した。僕は彼女を見とめて「あっ」と声を漏らした。向こうの彼女も同様に驚きの表情を浮かべた。

「健太君!」

「理科さんじゃないですか! どうしてこんなところに?」

 僕と理科さんは思わぬ再会に思わず抱き合って喜んだ。彼女たち十人が別の集落に旅立ってからもうかなり日数が経っている。本当に久しぶりの再会だ。もう二度と会うことはないだろうな、と漠然と考えていたので、これは嬉しい誤算だ。

「君たち、知り合いなの?」

 僕らが奇跡の再会で歓喜に浸っているのを横目で見ていた金田さんが、戸惑いがちに訊いてきた。

「はい。彼女は以前の村で一緒だったメンバーなんです。理科さん……ええと苗字は何でしたっけ?」

「平田。平田理科です。こっちの世界に来てからしばらく健太君と同じ集落で生活してました。元の世界では中学の理科の教師でした」

 理科さんは丁寧に挨拶しお辞儀をする。

「この人は金田さん。こっちは巻和也。僕と同い年だよ」

「金田です。よろしく」

「巻和也です。どうも」

 二人が簡単に挨拶したあと、僕は理科さんがこんなところにいた事情を尋ねた。理科さんも色々聞きたいことがあっただろうが、まずは自分のほうのことを語ってくれた。

「ついさっき、そうね、一時間くらい前かな。こっちに来たの」

「じゃ、まだ本当に来たばっかりなんだ」

「健太君たちと分かれて、私たちは別の集落に向けて出発したでしょ。私たちは三日間歩いて、四日目の朝にやっと新しい集落についたの。もうバテバテよ」

「実際に集落があったんですね! あの見立ては正しかったってことか。それでどんな村だったんですか?」

 僕は勢い込んで尋ねた。

「結論から言うと、村には誰もいなかった。私たちの前の集落と同様、生活道具の一部はあったけど、本当に一人もいなかったの。家は13軒だから、規模はほぼ同じくらいね。家の作りも似た感じかな」

「そんなことが実際にあるんですね」

 和也は僕から話を聞いてはいたが、実感が湧かないらしく想像出来ないという顔をする。
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