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一冊のノート
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「前の村で一緒だった人から聞いた。まあ、一般には公表されていない情報だけど」
和也は信じられないといった表情でぽかんと僕の顔を見つめている。
「嘘だろ、おい……まあ、確かにこのところ地震が多かったけど……」
「本当かどうかは分からないけどな」
「それにしても健太、お前よく落ち着いていられるな。こんな状況で」
和也は訝しそうに僕を見た。僕は心外と言わんばかりにちょっと声を荒立てた。
「こんな状況だからだよ。向こうに残してきた人たちは確かに心配だけど、こっちはこの世界で生き延びていくのに精一杯なんだ。それに僕がこっちに来てからもう何日経ってるんと思うんだよ」
「ごめん……俺が悪かった。謝る。お前がこれまでどれだけ苦労してきたのか、そこに思い至らなかった」
和也はすぐに自分の非を悟り平謝りした。その低姿勢は、逆に僕が感心するほどだった。昔から真面目なやつではあったが、軽そうに見えて今も堅実な生き方をしているんだろうな、と思えた。
「ここに僕がこっちに来てから起こったことを書いた記録があるから見てくれ」
僕は一冊のノートを和也に差し出した。
「記録……」
和也はそのノートをパラパラとめくっていたが、ノートから目を離さぬまま「おい、健太」と僕を呼んだ。
「これ、全部お前が書いたのか?」
「ああ。こっちの世界での事柄はほとんど書いている。実は村の役割で記録係みたいなことをやっててな。ちょうど良かったんだ」
そのノートを初日からつけていたわけではないが、以前のこともメモなどを頼りになるべく忠実に記録しておくようにしていた。こっちの世界で自分、あるいは仲間が生活していく上で役立つように、というのが主な理由だが、万が一他人の手に渡っても、その人がこれを役立ててくれればいい、と思っていた。過去に歴史書などを編纂した偉人たちもこんな気持ちだったんだろうか、なんて感慨に浸ったりもする。
「今それを読めというつもりはないが、僕が今までの経過をざっと話すんで、そのノートは参考にしてくれたらいい」
「わかった。頼む」
僕はこの世界に最初に来た時から、翌日桂坂さんが来て、次の日にスカウトさんが来て……と時系列にそって話していった。自分で何度か振り返っているので、だいたいは頭に入っているが、確認のために時々ノートをチェックしながら、和也に語って聞かせた。
和也にとっては未経験の話ばかりだから、あまり実感は湧かないだろうが、それでも黙って真剣に聞いてくれるので有り難い。僕にとってもこうやってじっくり誰かに話すことは良い刺激になる。
和也は信じられないといった表情でぽかんと僕の顔を見つめている。
「嘘だろ、おい……まあ、確かにこのところ地震が多かったけど……」
「本当かどうかは分からないけどな」
「それにしても健太、お前よく落ち着いていられるな。こんな状況で」
和也は訝しそうに僕を見た。僕は心外と言わんばかりにちょっと声を荒立てた。
「こんな状況だからだよ。向こうに残してきた人たちは確かに心配だけど、こっちはこの世界で生き延びていくのに精一杯なんだ。それに僕がこっちに来てからもう何日経ってるんと思うんだよ」
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「ここに僕がこっちに来てから起こったことを書いた記録があるから見てくれ」
僕は一冊のノートを和也に差し出した。
「記録……」
和也はそのノートをパラパラとめくっていたが、ノートから目を離さぬまま「おい、健太」と僕を呼んだ。
「これ、全部お前が書いたのか?」
「ああ。こっちの世界での事柄はほとんど書いている。実は村の役割で記録係みたいなことをやっててな。ちょうど良かったんだ」
そのノートを初日からつけていたわけではないが、以前のこともメモなどを頼りになるべく忠実に記録しておくようにしていた。こっちの世界で自分、あるいは仲間が生活していく上で役立つように、というのが主な理由だが、万が一他人の手に渡っても、その人がこれを役立ててくれればいい、と思っていた。過去に歴史書などを編纂した偉人たちもこんな気持ちだったんだろうか、なんて感慨に浸ったりもする。
「今それを読めというつもりはないが、僕が今までの経過をざっと話すんで、そのノートは参考にしてくれたらいい」
「わかった。頼む」
僕はこの世界に最初に来た時から、翌日桂坂さんが来て、次の日にスカウトさんが来て……と時系列にそって話していった。自分で何度か振り返っているので、だいたいは頭に入っているが、確認のために時々ノートをチェックしながら、和也に語って聞かせた。
和也にとっては未経験の話ばかりだから、あまり実感は湧かないだろうが、それでも黙って真剣に聞いてくれるので有り難い。僕にとってもこうやってじっくり誰かに話すことは良い刺激になる。
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