異世界転移物語

月夜

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深まる混迷

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 事前に帰ってくる時間を打ち合わせてはいなかったが、特に周りに見るべき何かがあるというわけではなく、そんなに時間はかからず戻ってくるだろうと、何となくみんな思っていた。だが、こうして暗くなっても誰も帰ってこない。釣りキチさんが戻ってもまだ。

 これはおかしい、とみんなが思い始めたところで、僕たちが帰ってきたというわけだ。もちろん僕らは帰る途中で彼らを見かけてはいない。

「もう暗くなってきちゃいましたから、捜索もし難いですね……」

 安食さんが金田さんの顔を伺う。

「だからといって、このままほっとくわけにもいくまい。それでも捜したほうがいいだろう」

 金田さんは迷いなく答える。それを見て、僕はとっさに思いつきを述べた。

「じゃあ、こうしましょう。僕と金田さんと釣りキチさん、男性陣三人で固まってしばらく捜索してみることにします。女性陣は動かず、彼らの帰還を待っていてください。そうですね……一時間ぐらい、そんな感じでどうですか?」

 僕の提案に特に反対意見は出なかったので、僕らは早速行動に移った。懐中電灯で照らしながら、彼らの名前を呼びつつ、捜索を続けた。この暗い中では、目視で発見するのは難しいと思われ、もっぱら彼らの声に聞き耳を立てるという捜索方法をとらざるを得なかった。しかし返事はなく、数時間捜索を続けたものの、結局暗闇の中に彼らの姿を見つけることも出来なかった……。

 僕らの捜索が不調に終わったことを女性陣に告げると、彼女らの間にも落胆が広がった。しかし、いつまでも腹を空かしているわけにもいかない。ガッカリしながらも、皆で寂しく夕食をとった。

「本当にどうしちゃったんでしょうね?」

 安食さんが誰にともなくつぶやく。疑問をぶつけるというより、つい口から溢れたような感じだ。それをきっかけに僕もこの件について気になっていた点を再度考え始めた。

「林さんたちが出掛ける前、何かおかしいこととか、気になるようなことはなかった?」

 僕は女性陣に確認する。

「特には何も。いつもとおんなじだったわよ。海原君なんかは森の中を歩けるのをとても楽しみにしているみたいで、いつもと違ってちょっとウキウキした感じだったけど」

 料子さんがその場面を思い返す様子で語る。その情報は、今回の失踪とは直接は関係ないような気がする。
 
「なるほどね。林さんたちが消失する前になんらかの兆候があったわけではなさそうだな。とすると、林さんたち自らの意思で消えたという線は考えにくいな」
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