異世界転移物語

月夜

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待ち受けていた誤算

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 金田さんはそれを聞いて目をむいた。

「健太君、お前さん、すごいこと考えるなあ。悲観的というか恐ろしいまでの洞察力というべきか……。うーん、でもそれはあくまで推測の一つに過ぎないよ。実際にはいろんな可能性があるわけで、今の段階では情報が少なすぎて何も分からないに等しい」

 僕もちょっとどうかしていた。せっかく明るい気持ちになれたのに、自分からわざわざマイナス思考に陥る必要はないだろうよ。金田さんと話して、落ち込む方向へいくのはなんとか回避出来たようだ。

 午前中の終わりまでまだしばらく余裕があるという頃に、善蔵さんたちの家に着いた。ところが妙に静かである。まさか……

「善蔵さん? 緑さん?」

 僕は狭い家の中には誰もいないのが、見た瞬間に分かっていても、そう呼びかけずにはいられなかった。しかし、当然ながらまったく反応はない。

 昨日の今日で引っ越すこともあるまい。しかし、間違いなくもぬけの殻だった。もともと物の少なかった家なので、確信は持てないが、必要な道具一式を持って、夜逃げでもしたわけではなさそうだ。

「どこかに出掛けてるのかな?」

 金田さんが首をひねる。

「……かまど。そういえば、かまどがあるんですよ!」

「かまど?」

 僕は記憶の糸を辿るように思い出そうとした。

「そう、かまどです。ここから歩いて10分ほどのところに、火を燃やすかまどがあるんです。そこで善蔵さんが不在の間も火を絶やさないようにしてるみたいなんです。もしかしたら、今もそこにいるのかもしれません」

「かまどか……。そうだな、もう少し待って戻ってこなかったら、そっちの方を見に行くか」

 確かに今すぐに向かって、すれ違いになってしまうのもうまくない。ある程度、ここで待つということをしたほうが無難ではある。

 15分ほど待ってみたが、残念ながら善蔵さんたちは戻ってこなかった。

「仕方ない。かまどの方に行ってみるか」

 僕に異論はない。それを伝えるべく、大きくうなずいた。

 二人でかまどのところに行ってみたが、予想通りというか、やはり誰もいなかった。正直なところ、善蔵さんだけならともかく、二人揃ってかまどに来る必要性はないと考えてはいた。

「一体、どこへ行っちゃったんでしょうね」

「分からん。他に思い当たるところもないな」

「まさか二人揃ってボケて、徘徊してるわけでもなさそうですね」

「むしろ、まだそっちならなんとかなりそうなもんだがな。さて……これからどうする?」

 金田さんの投げかけに僕は即答出来なかった。まさかこんなことになるとは思いもよらなかったこともある。ここまで来るのにもそれなりに時間をかけてきた。あらためて出直すという案もあるが、出来れば避けたいところだ。

「そうですね……。やっぱり待ちます?」
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