異世界転移物語

月夜

文字の大きさ
上 下
227 / 319

十人の食卓

しおりを挟む
 僕は驚いた。桂坂さんと顔を見合わせる。以前の集落では確かにどの家も釘を使わない工法で建てられていた。向こうの世界から釘や鉄が持ち込まれて初めて鉄を使用するようになったのだ。ところがこの家では普通にどこでも釘を使っているという。

「ということは……健太君たちがいた村ではそれが当たり前だったかもしれないけど、それはこの世界のスタンダードではなかったかもしれない、と言えるかもしれない」

 林さんが自ら解説を試みたが、その時、料子さんが手を叩きながら「まあ、それ以降は夕食のあとに、ということで」と言ったので、なんか尻切れトンボ的になりながら、夕食に突入した。

 夕食は人数も増えてずいぶん賑やかになった。今、全部で人だ。僕に桂坂さん、海原君、料子さん、釣りキチさんの旧村人のグループが5人。こちらの村人が、元々居た金田さん、林さん、安食さんの3人と新しく来た楓さん、栗原君、合わせて5人。全部で10人の大所帯となっている。

「健太君がいた集落は、一番多い時で何人ぐらいいたの?」

 缶詰を食べていた金田さんが、ふと気づいたという感じで僕に尋ねてきた。

「そうですね。30人近くいたと思います。その後は、別行動するグループが出たり、集団で行方不明になったりして、一気に減っちゃいましたけどね。僕らがいなくなって、向こうがどうなってるか、まったく分かりません。今でも法則が生きているなら、毎日一人ずつ増えていると予想できますが」

「だとすると、元の世界から異世界に転移した人はかなりの数にのぼると推定されるな」

「そうかも知れません。僕の知っている限りでは、同じ現場から二人転移する例は知っています。あ、あのご夫婦もそうですよね」

 だからといって何か確定したことがあるわけではない。金田さんも特に世間話程度に聞いてきたようで、特にそれ以上は話が広がることはなかった。

「さっきの話に戻るが、善蔵さんって言ったかな。夫婦でこっちに居るという……」

 少しの間、沈黙が続いたのを見計らって、金田さんがそう話題を戻した。

「ええ」

「テントもあることだし、誰か二人組で行ってみる必要があるよな」

「そうですね。ただ、誰がペアになるかということと、会ってどうするか? という問題がありますね」

 金田さんは腕組みしながら言う。

「健太と俺で行くか? 少なくとも健太と安食さんのどちらかは行かないと道が分からない。それにその後のことを検討するには、ある程度今の状況の全体を把握しているメンバーのほうがいいだろう」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...