異世界転移物語

月夜

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「ああ、なんとなく分かります」

「健太はまだまだ若いからこの先なんとでもなるさ。ほら、あの、優子ちゃんだっけか? 彼女は恋人ではないの?」

 林さんは逆に興味津々といった体で僕に質問を向けた。

「ええ、違いますよ。森に来てから知り合ったんですが、最初から一緒なので、一緒にいる時間が自然に長くなった感じで、まだなんとも」

「そうか……。まあ、頑張れよ」

 林さんはそれ以上、僕たちの関係を詮索することはせず、再び沈黙が訪れた。僕はちょっと話題を変えてみた。

「林さんは、今の状況についてどう思います?」

「どう、とは?」

「誰が何の目的で、こんなことを起こしているか、ってことです」

 僕は少し真剣な声音で林さんに問いかけた。

「誰がって……。健太は、これが人為的なものだと思ってるの?」

「いえ、これだけ大掛かりなこと、ただの人間には不可能だと思います。そうじゃなくて……神……とでもいいましょうか。何か人智を超えたものによって、仕組まれたんじゃないかと疑ってるんです」

 林さんは僕の返答に少し虚をつかれたようで、目をパチクリさせた。

「そんなこと、考えたこともなかったな。健太は何か宗教を信じてるのかい?」

「いいえ、特定の宗教は何も。お寺も神社も関係なく行くような宗教ごっちゃ混ぜのごく普通の日本人ですよ。でも……神の存在はなんとなく信じてます。今回の件があったあとは特に」

「なるほどな。まあ、俺も運命を呪ったりしたこともあるな。そうか、今回の件も神のいたずらの可能性もあるわけか」

「まあ、たとえそうだとしても、だから僕たちに何が出来るんだ? って話ですが」

「そうだな。神の仕業なら、何か意味があるかもしれないが、逆にただの気まぐれってことも有りかねない。人選とかな」

 そう。それが一番の問題なのではないだろうか。なぜ、僕たちが選ばれたのか? なぜ、僕らなのか? それは今までも散々考えてきたことだけれど、いまだに何の答えも見出せていない。そもそも分かるともあまり思えないのだけれども。でも一番知りたい謎には違いない。

「俺たち、金田や安食、三人だけだったときは本当にどうなってるのか、さっぱり分からなかったが、健太たちに会って、この世界のあちこちでそんなことが起こってるんだって初めて知った。言っちゃ悪いが、なんだかホッとした気分だ」

「そうでしょうね。一気に世界が広がったわけですから。僕らも最初は不安ばかりだったものです」

 それは本当に共感出来る心境だ。まして林さんたちはずっと少ない人数で過ごさねばならなかったのだから。
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