異世界転移物語

月夜

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謎の悲鳴

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「とはいえ、今日はもう無理だ。これは持ち帰ってみんなに見せよう。万が一、僕たちの中の誰かの荷物ってこともあり得るかもしれないからね」

 昼飯を食べ終わり、じゃ帰ろうかと立ち上がった瞬間、遠くから耳をつんざくような悲鳴が聞こえてきた。間違いなく人間の声だ。それもたぶん男。

「どこだ!どこからだ?」

「あっちの方から聞こえたわ」

 桂坂さんが指を差した方向に顔を向けると、遠くの繁みの中を何かが動く気配があった。悲鳴の主の姿は見えなかったが、何かがいるのは間違いない。

「行ってみよう!」

「待ってよ」

 僕が先走って行こうとすると、桂坂さんも慌てて後ろからついてきた。

「おーい! 誰かいるんですかー?」

 僕らは声のした辺りを中心に調べてみたが、丁度そこは低木が密集した繁みになっており、捜索しにくい場所で、人の姿は見つけられなかった。

「ねえ、どうするの? そんなに長くここにはいられないわよ。そろそろ帰らないと」

「そうだな。仕方ない。これで終わりにしよう。また明日このルートで捜索に出ることにしよう」

 僕らは名残惜しかったが、今は帰る選択肢しかなかった。それでも希望は繋がった。メロンパンの袋や先ほどの悲鳴の主。手掛かりが見つかり、新展開が期待出来そうだ。帰り道は体力的には疲れ切っていたが、気力は充実していた。

 集落に帰ると、みんなが優しく出迎えてくれた。僕は家に入ると荷物を下ろし、すぐに横になった。

「疲れただろう」

 金田さんが水を持ってきて、ねぎらいの言葉をかける。

「ええ、まあ。でも収穫がありましたよ」

「本当か」

 僕は全員が揃ったところで、みんなに今日の報告をした。

「なるほどなあ。メロンパンの袋なら間違いなく、俺たちの世界の奴なんだろうなあ」

 説明を一通り聞いた金田さんが感想を言う。

「悲鳴のほうも気になりますね。その人、無事だといいんですけどね。何かに襲われたとかだったら心配ですね」

 海原君が不安げな顔を見せた。

「頭とか打って気絶してたりして」

 安食さんが悪い推測をする。

「だとしたら、早く見つけてあげないとやばいですよね……。まあ、この季節なら凍え死ぬこともないでしょうけど」

 楓さんも顔を曇らせる。

「ちなみに誰もメロンパンとか関わりないですよね?」

 誰からも返事はなかったので、やはりあのメロンパンの袋はここにいる以外のメンバーが向こうの世界から持ってきたもののようだ。

「ところで今日は誰もこっちの世界に来なかったんですか?」
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