異世界転移物語

月夜

文字の大きさ
上 下
211 / 319

模索と展望

しおりを挟む
 それは「希望」と言ってしまってよいのか分からないが、この世界に展望が開けることに繋がるかもしれない。ただし、まだ今の世界と前の集落があった世界が同一であると決まったわけではないのだが。

「健太君。君らの仲間がいた村はどこら辺りか見当はつかないのかね?」

 夕食後にみんなで語り合ってる中で、金田さんが僕に話を振ってきた。

「ええ、残念ながら」

 僕は首を振る。

「その集落が見つけられれば、同じ世界だってことになるから俺たちの行動範囲も一気に拡大するし、将来的な展望も開けてくるんだけどなあ」

 金田さんは賢い人だ。知らない間に、僕と同様の思考過程を踏んでいたらしい。

「そうですね。それが喫緊の課題かも知れません」

「あの……狼煙とか上げるのはどうでしょう?」

 そばで僕たちの会話を聞いていた海原君が遠慮がちで提案してきた。

「狼煙か……。うん、いいかもな。樹より高いところまで煙が上がれば、遠くから発見もできるし、そこに人がいることも分かる」

 なるほど。そういえばそうだな。むしろ、前の集落で誰もそれを言い出さなかったのが不思議なくらいだ。

「やってみる価値はありますね。明日にでもやってみますか」

 僕はすぐに海原君の発案に乗った。

「でも、外で火を使ったことは今までもありましたよね? それってもしかして狼煙みたいなもんじゃないですかね?」

 しかし、当の海原君がまた疑問をぶつける。

「確かになあ。でも今まで上の方とか気にしたことなかったからなあ」

 僕はこれまでの様子を思い出そうとしたが、どうもうまくない。

「うん。俺もさっきは二つ返事で賛成したが、よく考えると森の中にいたんじゃ、遠くの煙なんて見えないし、集落からでもよほど高くまで上がらないと確認出来ないよな。やっぱ難しいかもしれんな」

 僕たち三人は、それぞれ腕を組んでまたまた考え込んでしまった。

「明日からの動きですが、二人組の一チームでも探索に携わったほうがいいと思うんですが」

 沈黙を破る僕の言葉に金田さんが返す。

「その心は?」

「とにかく地道に歩き回るしかないと思うんです。生活基盤の確立も大事な仕事ですけど、誰かが来るのを待っているのでは、消極的過ぎます。この世界はかなり大きな世界と思われます。積極的に行動してこそ、人と人とが接触できるのではないかと考えます」

 僕は伝えたかったことを一気に喋った。

「しかし、たった一組があてもなく歩いてるだけじゃ……」

「それでもやらないよりずっといいと思います」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...