異世界転移物語

月夜

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鈴木楓

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 翌日、午前中は手分けして作業した。食料が心許ないので、自然と昼飯も質素になる。午後のことだが、聞いてみるとやはり出現時間は僕らの場と一緒で午後1時のようだ。最近は金田さんが行くことにしているというので、今日は僕と桂坂さんも同行させてもらった。

 30分ほど歩いて、金田さんが「ここだよ」と教えてくれた。まだ三人しか来ていないので
、それほど荒らされている跡はない。

「前にトラックが来たことあるんですよ」と教えてあげたら、金田さんはひどく驚いていた。

「怖いな。急にそんなもん来たら腰抜かすぜ」

 大袈裟に手を広げる。

「さあ、来るとすればそろそろだな」

 白い靄が立ち込めた。前と同じだ、これは誰かが来る! 僕はそう確信した。

「あっ」

 靄が晴れたのを見て桂坂さんが声を上げた。目の前には女の人がいた。買い物のカート三台とともに。

「おっと。びっくりしないでくれよな」

 金田さんが素早くそばに寄る。なかなか俊敏な動きだ。女の人は不安そうなままだ。そんな彼女に金田さんは丁重に事情を説明する。

 彼女にしてみればあまりにも信じられないことばかりだろうが、なんとかパニックにならずに済みそうだった。金田さんの話術もたいしたものだ。

「私は鈴木楓(すずきかえで)と言います。銀行勤務のOLです」

 ようやく落ち着いた彼女が自己紹介をした。休みの日なのだろう。白系統のワンピースというカジュアルな服装だ。

「スーパーで買い物してレジで並んでたら、いきなり目眩がして、はっと気がついたらこんなところに……」

「やっぱりみんな同じだな。君も5月20日かい?」

 金田さんの問いの意味が理解できなかったのか、楓さんは戸惑った表情を見せた。

「詳しく説明は後でするけど、今は5月20日ではない。たぶん」

「たぶん、て」

「俺たちにも今がいつなのか分からないんだ」

「そんなことって……」

 楓さんは絶句した。

「しかし、これはまた大層な荷物を抱えて来たな。これ、どうしたの?」

 金田さんは、デンと置かれた三台の買い物用カートを呆れたように眺めながら言った。よくスーパーで見かけるカゴとカートが一緒になった奴だ。

「ええと……レジで支払いしてる途中だったので。あ、これ全部が私のじゃないんですよ」

 勘違いされては困るとばかり慌てて否定する楓さんだったが、別にこちらもそんなことは思ってないんだが。

「私の前の人の分と、後ろの人の分も一緒に来ちゃったみたいです」

「なるほど。どおりでたくさん入ってるわけだ」
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