異世界転移物語

月夜

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生活談議

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「ほら見て。ビニール袋に葉っぱ詰めて、簡易的な枕と布団の代わり作ったのよ」

 料子さんが自慢げにそれを見せてくれた。人間というのは土壇場になると色々知恵が回るものだ。ろくに荷物もない中で、いかに工夫していけるか。それが問われると思った。

「健太君たち、何か火を起こせるもの持ってない?」

 釣りキチさんが訊いてきた。

「川で魚は釣れるんだけど、火を起こせなくてね。困ってたんだ」

「火ですか……ええと」

 思い起こしてみても、バッグの中にライターかマッチを入れた記憶はない。僕はなんとなく作業着のポケットの中を漁った。すると偶然、一つのポケットにライターが入っていた。そういえばかなり前にポケットに慌てて入れたやつかもしれない。

「おお! ライターじゃないか。まさに渡りに船だね!」

 釣りキチさんは興奮しながら僕からライターを受け取る。昼間、海原君が集めたという薪用の木々に火をつけた。燃え始めた炎によってその場が赤く照らし出され、幻想的な雰囲気になった。

 その晩は魚を焼いて食べた。川魚もなかなか美味しい。腹ごしらえが出来たところで、僕らは明日からの動きを相談した。
 
「ここがどこら辺か見当がつく人いるかな?」

 僕はあまり期待しないでみんなに一応訊いてみた。案の定、誰も有用な情報を持つ者はおらず、そこから探るのは難しそうだった。

「釣りキチさんたちは川沿いは歩いてみたんですか?」

「うん。釣り場を探すのも兼ねて多少はね。でもあまり遠くまで行ってないし、その範囲ではずっと同じ調子だったね」

「あの川はスカウトさんが発見した川とは違いますよね?」

 釣りキチさんは即答しないで少し考え込んだ。

「実際に見たわけではないからなんとも言えないな。もしかしたらあの川がそうだ、ってこともあるかもしれない」

「川を渡ることはできそう?」

 桂坂さんが訊いてくる。

「うーん。無理だと思う。川幅もあるし、割と深いよ」

 釣りをするにあたってチェックしたのだろう。すぐに釣りキチさんが回答する。

「問題はこれからどうするかよね? ここである程度生活基盤を作っていくのか、仲間を探し歩くのか、あるいは他の集落などを探し続けるか、そんなあたりかな……」

 料子さんが腕を組む。

「前みたいに新しい人が食料を持って来てくれるわけじゃないので、色々と厳しいですね。食料は今のところ魚だけになるし、他の生活用品も何もない。ここで生活するのはそんなに長く続けられないんじゃないかと思います」

 僕は冷静に分析した。
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