異世界転移物語

月夜

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質素な寝ぐら

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「それで健太君たちはどうしてここに? 私たちを迎えに来てくれたの?」

 料子さんが期待を込めた眼差しで僕らを見る。ごめんなさい。僕たちはその期待に応えられそうにありません。

 僕がそう詫びる前に、料子さん自ら薄々事情を感じとったようだった。

「……あ、その装備を見れば、そうじゃなさそうね……」

「実はですね……」

 僕は僕と桂坂さんの身に起こった事件を包み隠さず説明した。じっと僕の話を聞いていた三人は、僕の話が終わると一様にため息をついた。

「結局、健太君たちも僕たち同様、迷子になっちゃったわけか……」

 釣りキチさんが首を垂れる。

「でもみんな出会えたから良かったじゃないですか」

 そう言ったのは海原君だ。みんなが落ち込んでいるところで、一番前向きな意見を出せるのはたいしたものだと思う。


「そうね。そうよね。それで健太君たちは来てから捜索して何か分かったことある?」

 料子さんが話を切り替える。

「いえ、何も。ここがどこなのかまったく検討がつきません」

「それに寝る場所だってまだ決まってないんです」

 僕に続いて、桂坂さんが答える。

「そうなんだ。じゃあ、とりあえず私たちと出会えて良かったわね」

 料子さんが軽くウインクをする。ちょっと場違いな感じがしないでもない。

「まさか、寝ぐらを見つけたんですか?」

「もちろん。だって私たちは一昨日から来てるのよ」

 助かった。これで今夜はなんとか乗り切れそうだ。

「川の近くなんです。岩と横穴が組み合わさって、ちょうど人が横になれるぐらいのスペースが有るんですよ。5人ならいけるんじゃないかな」

 海原君の説明は分かりやすい。

「とりあえずそこに行ってみたいな。もう暗くなったし」

「そうだな。早速行こう」

 釣りキチさんがそう言って歩き出したので、僕らは後をついて行った。

「それにしてもこんな暗くなる時間まで、よくウロウロしてましたね。僕らは寝ぐら探さなきゃならないから仕方なかったんですが、料子さんたちは無理して出歩く必要もないのに」

 僕はふと疑問に思い、料子さんに尋ねた。

「まあね。でもほら私たち3人だけでしょ。他の誰かに運良く出会わないかってギリギリまで探す気持ちも分かるでしょ?」

「ああ、なるほど。そういう考え方もありますね」

「実際、そうやって健太君たちを見つけることが出来たじゃない。結果オーライよ」

 僕らは釣りキチさんたちが昨夜泊まったという横穴にたどり着いた。自然に出来たというと奇跡的だが、人が作ったとすればやや出来が悪いというなんとも中途半端な作りである。でも雨露が凌げるなら贅沢は言えまい。
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