異世界転移物語

月夜

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嫌な感じ

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「とにかく昼飯食うべ」

 呆然と突っ立って遠くに視線を向けていた僕の肩を農家さんが軽く叩いた。そうだ、今はとりあえず待つしかない。僕は農家さんやセンセとともに家に戻った。

「みんな遅いわねえ」

 昼飯の準備をしながら生果さんがつぶやく。

「もう帰ってきてなきゃおかしい時間だよな」

 ドクターもそれを手伝いながら、不審そうな顔をする。

「嫌な感じですよね……」

 介護士さんも顔を曇らせた。

「見に行ったほうがいいのかな……」

 僕の迷いながらの一言にドクターが反応する。

「でも、こう人が少ないと、見に行くったって、もしすれ違いにでもなったら対応しきれないぞ」

「分かってます。それに午後からは僕と介護士さんで来訪者の迎えにも行かなきゃならないし」

「結局、待つことしかできないか……」

 最後はドクターが自分に言い聞かせるようにまとめた。

「車が自由に動かせればなんのことはないんだが」

 車さんがそう言ったが、それは無理というもの。本人だってそれは分かってるはずだ。

 その後、僕らは無言で昼食をとった。ワーワーおしゃべりする気にはなれなかったからだ。

 一時前に僕と桂坂さんは場に向けて出発した。結局、それまでに水汲み組には会えなかったが、仕方があるまい。今は迎え優先だ。

「介護士さんは皆が消えた件についてどう思いますか?」

 場への道すがら僕は介護士さんに質問した。

「私にはまるで分からないわ。一体何が起きているのかさえ」

「ですよね」

 最初から見てきた僕でさえ、さっぱり見当もつかないのだ。分かる方がおかしい。

「ただ、いつどこで誰が消えるか分からないって考えると、ちょっと以前より緊張するかも」

 確かにそうだ。常に警戒する必要が出てくるし、警戒していても回避できる保証はない。

「なんか、この世界の一つ上のステージに進んだのかも、って感じです」

「なんだかゲームみたい。私はゲームやんないから詳しくはないんだけど、それってステージをどんどんクリアしていく感じ?」

「まあ、ちょっと違いますけど。以前とは試練の度合いが全然違う気がしたので」

 そろそろ時間だ。いつの間にか場に着いていた僕たちは、緊張感を持って1時になるのを待った。

 白い靄が現れ、消えた後には白い作業着姿の男の人が現れた。マスクと頭をすっぽり覆った帽子で顔がはっきり分からない。何かの袋がいっぱい入ったオレンジのコンテナも一緒に現れている。

「君ううう?」

 マスクのせいで声がくぐもってよく聞き取れない。もしかして「君たちは?」と聞いたのか。
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