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陸
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話し終えてホッとしたのか、陸はすっかり笑顔になっていた。
陸の話をまとめるとこうだ。両親不在の家で、ちょうど宅配便の荷物の受け取りをしているところだった。急にめまいに襲われ、気づけば森の中に荷物とともに放り出されていた。周りに誰もいないので、誰か近くにいないかとすぐに歩き始めた。しばらく荷物の中身は防災セットだったが、置いておくわけにもいかず、仕方なく持って歩いていた。でも歩きにくくて邪魔なので、途中で箱をビリビリと破き、中身のリュックを取り出し、他のものを全部詰めて背負って歩くことにしたそうだ。
散々歩き回った挙句、誰にも会えずがっかりしていたところ、光が見えたのでそこに向かうと湖があったというわけだ。そこで釣りキチさんと保育士さんを見つけ声をかけた。二人と話して初めて自分の置かれた状況を悟ったということだった。
「知らない人に声をかけるなんて普通はあんまりやらないんですが、あの時は二人が天使のように見えましたよ」
「まあ、素敵な表現」と料子さんが自分の頬を両手で挟みながら言った。
「とても優しそうな方たちだったので自然に声かけ出来ました。あれがコワモテのヤクザみたいな人だったらどうしてたか分かりません」
「世の中には優しそうな顔して悪いことを平気でする大人がたくさんいるのよ」
真面目な顔で生果さんが苦言を呈した。
「まあ、とにかく無事に見つかってよかったよ」
僕は何よりそれが嬉しかった。桂坂さんが倒れるというアクシデントがあったとはいえ、すれ違いになってしまった原因の多くは僕にあったからだ。これで行方不明のままだったら、僕はおいそれと眠るわけにはいかなくなっていたかもしれない。
「そういえば桂坂さんの具合は……?」
「ああ、それならドクターが心配ないって。一度目を覚ましたけど、今はぐっすり眠っているわ。かなり疲れていたみたいね」
料子さんがそう報告してくれた。
「そっちも大事に至らなくて良かったです」
僕はようやくほっと一息ついた。
「ところで陸、あっ陸って呼んでいいかな?」
ずうずうしくて嫌がるかな、と思ったが、陸は「構いません」と簡単に了承した。自分が何と呼ばれようが興味ないと言わんばかりに。
「陸は中学三年生なんだよね?」
僕の質問にうなずく陸を見て、宙に言った。
「宙と同い年だな。仲良くしてやってくれ」
「はい」
しかし中学三年生頃の男女差は正直微妙だ。まだ女の子のほうが背の高い場合もあるし、性格的にも男の方が子供っぽい。実際、宙と陸が並んだら陸の方が身長が高いのではないか?
陸の話をまとめるとこうだ。両親不在の家で、ちょうど宅配便の荷物の受け取りをしているところだった。急にめまいに襲われ、気づけば森の中に荷物とともに放り出されていた。周りに誰もいないので、誰か近くにいないかとすぐに歩き始めた。しばらく荷物の中身は防災セットだったが、置いておくわけにもいかず、仕方なく持って歩いていた。でも歩きにくくて邪魔なので、途中で箱をビリビリと破き、中身のリュックを取り出し、他のものを全部詰めて背負って歩くことにしたそうだ。
散々歩き回った挙句、誰にも会えずがっかりしていたところ、光が見えたのでそこに向かうと湖があったというわけだ。そこで釣りキチさんと保育士さんを見つけ声をかけた。二人と話して初めて自分の置かれた状況を悟ったということだった。
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「ああ、それならドクターが心配ないって。一度目を覚ましたけど、今はぐっすり眠っているわ。かなり疲れていたみたいね」
料子さんがそう報告してくれた。
「そっちも大事に至らなくて良かったです」
僕はようやくほっと一息ついた。
「ところで陸、あっ陸って呼んでいいかな?」
ずうずうしくて嫌がるかな、と思ったが、陸は「構いません」と簡単に了承した。自分が何と呼ばれようが興味ないと言わんばかりに。
「陸は中学三年生なんだよね?」
僕の質問にうなずく陸を見て、宙に言った。
「宙と同い年だな。仲良くしてやってくれ」
「はい」
しかし中学三年生頃の男女差は正直微妙だ。まだ女の子のほうが背の高い場合もあるし、性格的にも男の方が子供っぽい。実際、宙と陸が並んだら陸の方が身長が高いのではないか?
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