異世界転移物語

月夜

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将来の村

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    大工さんは電気さんと一緒に仕事をすることが多かったので、かなり仲良くなったようだ。お酒があれば、毎晩お酒を酌み交わす仲になっていたかもしれない。

「今日の午後に来るやつで三十人目ってことか」

「そうなりますね」

「このまま延々と続いているなら、一か月後には60人、一年で365人てことになるな」

「単純計算だとそうなりますね。20年続けば7000人も」

「その頃にはどんな社会が出来てるんだろうなあ……」

    大工さんは遠い目をする。僕もはるか未来を想像してみた。二十年経っても一万人にさえならないなら、かつてのように大都市が形成されるってことはないだろう。百年でさえ、四万人に届かない。それまでに死んでゆく人も多いことを考えれば、よほど出生率が上がらない限り、そこで人口増加は頭打ちだ。

「地球に優しい平和な村だといいですけどね」

   人類は果たしてその程度の人口でも戦争などを引き起こしてしまうのだろうか?  人類学者にはとても興味深いテーマであろうが、僕にはよく分からない。

「それは、今の時期にどんな村にするか、にかかってるかもしれないな」

    大工さんがそう呟いたので、続きがあるかと思い、身構えていたが、その中身についてはその後、具体的に語られることはなかった。大工さんはそのまま行ってしまった。

「おはようございます」

    若々しい元気な挨拶が聞こえてきたのでそちらを見ると、宙と数学教師の算田さんが並んで近づいていた。

「おはよう! 算田さんもおはようございます」

「おはよう」

「もうこっちの暮らしには慣れましたか?」

「ああ、なんとかね」
 
    算田さんはのっぽな体を前に折り曲げながら
「痛てて」などと言っている。彼は今日で五日目になる。高校で数学の教師をしている算田さんは、痩せ型ですらっとして背が高く、動きもとてもスマートでちょっとしたイケメンである。

「最初にここに来たときは面喰らったけど、思ったよりスムーズに溶け込めたな。自分でも驚いてるよ」

「探検組が出発したあとで、ちょうど食器とか寝場所などの空きがあったのも良かったですね」

「僕は数学の計算や経理的なことは出来るけど、ここではあんまり役に立たないなあ。こんなことならもっと体を鍛えとくべきだったか、と思ってる」

    今はお金もないし、数字を数えるほどの物もない。だが、将来もそうかは分からない。いずれお金のやりとりが復活する可能性も否定できないと思った。そのときには算田さんの能力が活かせることもあるだろう。

「空いた時間で宙に数学教えてやってくださいね」
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