異世界転移物語

月夜

文字の大きさ
上 下
173 / 319

海原荒太

しおりを挟む
    翌日から新体制で僕らはまた生活をスタートさせた。そしてその日の午後の来訪者は、今までにないパターンだった……。

    午後に場に現れたのは、高校生ぐらいの青年だった。北野君同様、作業服である。泥が付いていることからして、農作業でもやってたのかと僕は彼を見て真っ先に思った。

    話を聞いてみると、驚いたことに、彼はなんと北野君と同じ高校の生徒だった。北野君を知っているか尋ねると、同級生だという返答が返ってきた。しかも、めまいがした時、北野君が同様にふらついたのを目撃したという。

    彼の名前は海原荒太(うなばらあらた)。北野君と同じくらいガタイのいい男の子だ。元気もいい。北野君が今はここにいないのを伝えるとしきりに残念がってた。

   それにしてもこれは新しいパターンだった。今まで知り合い同士がこの世界に転移した例はなかったからだ。この件については、夜のミーティングで話し合う必要があった。

   たった一例の得意な事例ではあるが、それを元にミーティングでは色々な考察が提示された。

「不特定の見知らぬ者が集まるという仮定はこれで崩れたわけだな」とドクター。

「たまたまそうなっていただけで、もともとルールってわけでもないんですけどね」

僕はそう応じた。

「でも、すごい確率じゃないですか?  知り合いに会うなんて」

宙が目を輝かせて言う。

「まあな。これが日本だけで起こってるとして、一億人も人がいるわけだろ。それで転移先で知り合いに出会うなんて、奇跡としか言いようがない」

宝泉さんがそう考察すると、農家さんはやや首を傾げた。

「そう決めつけるのは早くねえべか?  先に転移したやつに引っ張られて、ここに来たってこともないんかの?」

「そういう見えない力が働いた可能性も否定出来ません。転移のメカニズムも、転移する人々の選択基準も何一つ明らかになっていないのですから」

    僕の話にうなずいたドクターは私見をのべた。

「一つだけ言えることがある。北野君と海原君の例があったということは、今後、それぞれが向こうに残してきた家族や友人とまた会える可能性がわずかながら出てきたということだ」

「あ、なるほど」生果さんが手を叩く。

「でも……ちょっと複雑ではありますね。こっちと向こうと、どっちで暮らすのが本当に幸せなのか、ってことを考えると」

   保育士さんが言いながら目を伏せる。

「以前、大地さんが言ってたよね。大災害が起こるかもしれないって。それを考えると、残してきた人達がどうなるのか、不安はあるわ」と料子さんが言った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...