異世界転移物語

月夜

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二つの荷物

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    つかささんの足下には二つの大きなカバンがあった。

「鞄、持ちますよ」

 「ありがと」

    僕は重たそうなほうのカバンを持ってみた。思ったより重い。一体何が入ってるんだろうか?

「大丈夫ですか?」

    もう一つのカバンを肩にかけたつかささんが僕に訊く。

「そっちは多分20kgぐらいあると思うんですけど」

「はあ……20kgですか……」

     まあ、きついが十五分歩くぐらいなら何とかなるだろう。

「後ろで支えてあげますね」

    ナースさんがカバンの下を持ってくれる。途端に楽になった。

「助かります」

     つかささんのほうは全然平気そうだ。

「この中、何が入ってるんですか?」

     歩き始めながら、僕は息を切らしつつ尋ねた。

「ええと、そっちは冷蔵庫だったと思います。ポータブルのやつ。それに小物がいくつか」

「冷蔵庫?  それはすごい!」

    僕は歓声を上げた。

「冷凍もできるやつですよ。14リットルだったっけな……」

「ちょうど冷やせなくて困ってたんですよ。電気もなければ、家電なんかもちろん全然ないんで。なんてグッドタイミングなんだ」

「本当、奇跡ですね」

     後ろにいるナースさんも喜んでいるのがわかる。

「あ、そうなんですか。こっちはポータブル電源です。容量はそんな大きくないんですが。充電用のソーラーパネルもありますよ」

     すごい!  これはすごいぞ。僕はちょっと興奮した。電気さん、喜ぶだろうな。電気のことはよく分からないけど、電気さんならきっとなんとかしてくれるだろう。

「その電源があれば、この冷蔵庫を動かせるんですか?」

「はい。いつも使ってますから」

「おお!」

「なんでそんなもの持ってるんですか?」

    興奮している僕を尻目に、ナースさんは素朴な疑問を投げかけた。確かに。それは不思議だ。

「ああ、それはですね。私、大学院生なんです。理学部の地球物理学科で地震の研究をしてましてですね……。よく教授について調査に泊りがけで出かけるんです。その時、野外で役に立つのがこれなんですよ。教授ったら、お酒付きでビールとかいっぱい持って出掛けるので……」

    つかささんはその場面を思い出したのか、ちょっと困ったような顔をした。

「そうなんだ……。夜はキャンプしたりするわけ?」

「そうなんです。まあ現地調査が好きな教授なんで、しょっちゅう外に付き合わされるこちらとしては頭が痛いんですが」

「大変だね」

「私もあんな風になるのかなあ、ってちょっと怖かったりもしますが」

    そう言ってつかささんは笑った。

「もしかして、その教授って女の人なんですか?」とナースさん。
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