異世界転移物語

月夜

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リーダーの資質

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「なんか、今日の健太君、めっちゃ、仕切ってるね」

    理科さんが珍しいものを見るような目で僕を見る。

「ああ、そうだ。みんな、俺からひとつ提案がある」

     スカウトさんが急に口を挟んだので、皆驚いて視線をスカウトさんに集める。

「ええとな。ここもかなり人数増えてきたんで、そろそろリーダーを決めたらどうかと思うんだが」

「リーダーですか?」

    自転車君がぽかんと口を開ける。

「そう。リーダー。とは言っても指導者ってわけじゃない。まあ、ゆるく言えば『みんなのまとめ役』ってところか」

「リーダー決めるのはいいけど、俺らみんなそいつに従うわけ?」

     大工さんがやや不満そうな顔をする。

「リーダーが決めたことには絶対に従ってもろおう! なんて言われたりするんですかね」

     内装さんも疑問を呈する。

     スカウトさんは苦笑いしながら、それらにも丁寧に答えていった。

「ははは。映画やドラマの見過ぎだよ。まあ、本当に危機的状態の時は、リーダー特権で強引に進めなくちゃならない場合もあるだろうが、今のこの状況なら絶対絶命ってわけじゃない。食料も住処も余裕はある。そんな中でのリーダーの役割もまた違うんじゃないかなあ」

「そういえば、いままでまとめ役不在で、よく私たち生活してこられましたね?」

    保育士さんが言う。

「えっ。まとめ役ってスカウトさんじゃないの?   私はそう思ってたんですが」

    路木さんがそう言うと、何人かが「そうそう」と言いたげな顔で同意する。

「確かに俺が取り仕切る場面が多かったのは事実だ。ボーイスカウトの経験が随分と役立ってきたからな」

「じゃあ、リーダーはスカウトさんでいいんじゃないですか?」

    ドクターはそう言って、スカウトさんの顔をうかがった。

「俺はな、新しいリーダーに健太を推薦する」

「健太君?」

    料子さんがものすごく驚いた顔をした。意外なのは分かるが、なんだかそんなに驚かないでもいいよな、って思ったりもする。

「なんで健太君がいいと思うの?」

    電気さんが尋ねる。

「健太の今夜の仕切りをみても、意外に的確に状況判断出来る能力があるのがわかるだろう。決して仕事ができるとは言い難いが、ああ見えてバランス感覚や判断力は人並み以上だと思う」

「でも、スカウトさんはやっぱり適任だと思うけどなあ」

    内装さんはこの人選にまだ納得出来ないようだった。

「いや、俺はダメだ。子供達を引っ張ってゆく強いリーダーシップには慣れているが、さもするとバランス感覚を忘れ、自分の考えを一方的に押し付けてしまうこともよくある。また経験が邪魔して、フラットに考えられない面もある。マイナス要素も結構あるんだ」
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