異世界転移物語

月夜

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危険な賭け

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「下手すれば宙と新しく来た人の体が混ざってぐしゃぐしゃになるとかな」

「ちょっとやめてよ~。怖いの想像しちゃったじゃない!」

    僕の極端な連想で桂坂さんをビビらせてしまった。

「そんなことにはならないと思います。たぶん。お願いします。やらせてください」

    宙があまりに熱心に頼み込むので、僕と桂坂さんは最後には折れて、了承した。

「どうなっても知らないからね」

    場に着くと、宙は出現予定場所に立って、その時を待った。僕たちもいつも以上に緊張する。一体どうなるのだろうか……

   時間が来た。宙を包み込むように白い靄がかかり始める。その途端、靄の中から宙が弾き飛ばされた。

「痛っ!」

白い靄が消え、リュックを背負った女の人が現れた。山歩きの姿で、何か抱えている。

「何、何?」

女の人はすぐにキョロキョロと辺りを見回した。倒れ込んでいた宙も起き上がる。

「ええと。はじめまして。僕は天原宙っていいます」

「はっ?  あなた誰?  って、名前は言ったか。ここ、どこ?」

「森の中です」

「それは分かるけど……」

    僕らも彼女に近づいた。

「僕は田所健太といいます。こっちは桂坂優子さん。驚かないでくださいね。あなたは違う世界に飛ばされて来たんです」

「はい?」

女の人は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。そういえば少し顔が鳩に似ている、という不謹慎なことを考えてしまった。

「ここはあなたがいた日本とは違う世界みたいなんです」

「何それ?   異世界ってやつ?   あなた頭大丈夫?  アニメとかの見過ぎじゃないの?」

矢継ぎ早に質問を投げかける。少しだけ罵倒されてるような気もするが。

「あなた……ええと、名前を聞かせてもらえますか。なんか呼ぶ時不便なので」

「見ず知らずの人にいきなり名前なんか……まあ、いいわ。私の名前は山菜瑠璃美(やまなるりみ)。よろしくね」

「るる、るるりさんですか」

「ちっ、ちっ。る、り、み。るりみよ」

「りるみさん、りりるさん?」

「わざとでしょ」

    僕はマジに呂律が回らなかった。本当に言いにくい名前だ。

「ええい、もういいわ。面倒くさいから山菜(さんさい)って呼んで。友達もみんなそう呼んでるから」

「山菜って、わらびとかそういうのですか?」

    宙が尋ねる。

「そう。私、山歩き好きなんで、それもあってみんなやまなじゃなく、さんさいって呼ぶのよ、私のこと」

    発言の様子からすると、かなりさばさばした性格のようだ。

「で、一体これはどういうこと?」

「さっきも言ったように、山菜さんは現代日本からこの異世界の森に瞬間移動したんです」
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