異世界転移物語

月夜

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名簿データの検討

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「誰か向こうの世界から牛とか豚とか連れてきてくれないかな……」

     僕は冗談交じりにつぶやいた。

「健太君、本当バカよね。家畜なんか連れてきてもやる餌がないじゃん」

    桂坂さんに一笑に付された。

    そのあと、宙の世話は桂坂さんたちに任せて、僕は昨日の夕食で話題にのぼった名簿について検討してみることにした。

    名簿のデータはかなり詳細なものが揃ったと思う。名前、年齢はもちろん以前の住所、職業、出身地や事件の時の状況など、各人から聞き取りをした。

     問題となるのはメンバーの共通項、あるいは何か法則性のものがあるか、という点だろう。僕は色々な角度から検討してみる。

    名前や年齢、職業などはまったくバラバラで何も共通点がない。住んでいた場所も全国津々浦々だ。「日本に住んでいる日本人」というのが今のところ唯一の共通点である。住所に関して言えば、関東地方が十人と圧倒的に多いが、東北や中部(宙は長野県らしい)、近畿や中国、九州地方もいる。

    状況については「今年の5月20日午後1時に事件が発生した」という点では、みんな一致している。ただし、その時にやっていた行動や一緒にいた人などは、それぞれのケースごとに異なる。どういう条件の時に、この現象が起こるのかはまったく見当もつかない。この現象を事前に予想できた人はもちろん誰もいない。

    僕は「もしかして、それぞれの住んでいた日本は、パラレルワールドの日本で、少しずつ違うところがあるのではないか」などという突拍子もない考えが浮かんだこともあったのだが、時事ニュースなどについて話してみる限りでは、みんな同一の世界からこちらに来ているとしか思えなかった。

    その後も色々考えてみたが、特に有意義な考察が出来たとは言い難かった。そんな状態でその日の夕食を迎えた。

    メニューは宣言通り、バーベキューと相成った。魚の代わりに肉を食べれるのはやはり嬉しい。正直、魚は少し飽きてきたところだ。嬉しいことに海苔の巻いたおにぎりまであり、僕はハイテンションで夕食の時間を過ごした。宙はまだまだ日常の延長のような感じで過ごしていたが、僕たちに遠慮しているのか肉をあまり食べないようにしているようだった。

「宙も食えよ。お前が持ってきたもんだろ」

「そうだぞ。若者よ、食え、食え、食っちまえ」

    僕の上から目線の物言いに、さらに大工さんまで追いうちをかける。

「今日はあんまり動いてないんで、そんなにお腹減ってないんですよ」
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