異世界転移物語

月夜

文字の大きさ
上 下
104 / 319

おにぎり

しおりを挟む
    夕食時には、料子さんの宣言通り、塩のおにぎりが用意された。小さいおにぎりが一人一個程度であったが、皆から歓声が上がった。

「おにぎりなんて本当に久しぶりです!」

    僕はおにぎりを頬張りながら、嬉しさを隠さず喜びを全開する。

「本当におにぎりがこんなにうまいなんて……」

「健太君や優子ちゃんは長いことここにいるからな。余計にそうだろうな」

    僕や桂坂さんの様子を見ていたドクターが、自らも嬉しそうに言う。

「そもそもご飯を炊くところから大変なんだけどね」

    料子さんが鍋を指して言う。確かに炊飯器とかもちろんないし、飯ごうだってないわけで、ご飯を炊くのだってコツがいるだろう。僕にはとてもやれる自信はない。僕だって一人暮らしで自炊してたから、炊飯器でご飯炊くぐらいはしていたけど。

「まあ、毎日飢えずに食事が出来てるだけで、ある意味奇跡みたいなものですよね」

    保育士さんの言葉に、みなうなずいた。
そのあと話題は変わって、路木さんが言った。

「キャスターの件だけど、湖に持っていってもいいかな?」

    夕食前に集まったときに路木さんがみんなに伝えていたので、今はそれの確認だ。

「構わないと思うわ。みんなどう?」

    代表して最初に答えた生果さんが女性陣に訊く。

「今のところ、運ばなければならない重いものもないので、いいと思います」

    そうナースさんが答えると、残りのメンバーも皆うなずいた。

「そういえばさあ。健太君、確かみんなの名簿作ってるって言ってたよね。進んでる?」

生果さんが急に話題を変えて、僕の方に話を振った。

「一応は。毎日新しい人が増えるんで、どんどん追加していかなきゃならないので常に未完成ですけど」

「その名簿を見ていて、何か気づいたこととかある?」

「気づいたことですか……」

「ほら、みんなの共通点とかさあ」

「共通点……」

    僕が少し戸惑っていると、すかさずスカウトさんが助け舟を出してくれた。

「ここに来ることになったメンバーに何か共通点となる特徴がないか、ってことだと思う」

「ああ……」

「なぜ、我々が選ばれたのかという理由にもつながることだけど」

「なるほど。そうですね……」

    急に話を振られたため、僕は困ってしまった。

「ちょっとそういう目で名簿を見ていたわけではないので、今急に問われても何も思いつきません……」

    生果さんが尋ねたのは特に何か思うところがあったわけではないらしく、それ以上追及されることはなかった。

「明日の夜までには考えておきます」

    僕はとりあえずそう返答しておいた。名簿を作るということはそういう役割も兼ねているわけか……

    みんなそれぞれに様々なことを考えている。僕の至らなさを感じるとともに、僕はみんなと暮らしていることの有難さも感じていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

英雄英雄伝~チート系主人公増えすぎ問題~

偽モスコ先生
ファンタジー
平凡な高校生、森本英雄(もりもとひでお)は突然くじ引きによってチート系主人公の増えすぎた異世界『魔王ランド』に転生させられてしまう。モンスター達の絶滅を防ぐ為、女神ソフィアから全てのチート系主人公討伐をお願いされた英雄は魔王として戦うハメに!? 英雄と魔物と美少女によるドタバタ日常コメディー! ※小説家になろう!様でも掲載中です。進行度は同じですが、投稿時間が違います。

異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。 息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。 壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。 茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。 そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。 明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。 しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。 仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。 そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界坊主の成り上がり

峯松めだか(旧かぐつち)
ファンタジー
山歩き中の似非坊主が気が付いたら異世界に居た、放っておいても生き残る程度の生存能力の山男、どうやら坊主扱いで布教せよということらしい、そんなこと言うと坊主は皆死んだら異世界か?名前だけで和尚(おしょう)にされた山男の明日はどっちだ? 矢鱈と生物学的に細かいゴブリンの生態がウリです? 本編の方は無事完結したので、後はひたすら番外で肉付けしています。 タイトル変えてみました、 旧題異世界坊主のハーレム話 旧旧題ようこそ異世界 迷い混んだのは坊主でした 「坊主が死んだら異世界でした 仏の威光は異世界でも通用しますか? それはそうとして、ゴブリンの生態が色々エグいのですが…」 迷子な坊主のサバイバル生活 異世界で念仏は使えますか?「旧題・異世界坊主」 ヒロイン其の2のエリスのイメージが有る程度固まったので画像にしてみました、灯に関しては未だしっくり来ていないので・・未公開 因みに、新作も一応準備済みです、良かったら見てやって下さい。 少女は石と旅に出る https://kakuyomu.jp/works/1177354054893967766 SF風味なファンタジー、一応この異世界坊主とパラレル的にリンクします 少女は其れでも生き足掻く https://kakuyomu.jp/works/1177354054893670055 中世ヨーロッパファンタジー、独立してます

ブロック作成スキルで、もふもふスローライフを目指すことにした

うみ
ファンタジー
 もふもふ犬と悪魔少女と共に異世界ジャングルでオートキャンプする!  俺こと日野良介は、異世界のジャングルに転移してしまった。道具も何も持たずに放り出された俺だったが、特殊能力ブロック作成でジャングルの中に安心して住める家を作る。  うっかり拾ってしまった現地人の悪魔っ娘、俺と同時に転移してきたと思われるポチ、喋るの大好き食いしん坊カラスと一緒に、少しずつ手探りで、異世界での生活を充実させていく。  サバイバル生活から楽々スローライフを目指す!   衣食住を充実させるのだ。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...