異世界転移物語

月夜

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路木さん

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     家に戻ったあと、理科さんは大工さんをつかまえて何やら話をした。僕には話の内容は聞こえてこなかったが、何か大工さんに頼みごとをしていたようだった。

    それにしても理科さんとは今日のお昼に初めて会ったばかりなのに、なんだかずっと前からの知り合いのような気がする。理科さんの人懐っこい性格のなせる技だと思う。

    家の中もかなり狭くなってきたが、とりあえず今日のところは二軒だけで寝ようということになった。もうそろそろ男女とも手狭になる。近いうちに三軒目や四軒目を使い始めることになるだろう。

    翌朝はカラッと晴れた良い天気だった。
釣りキチさんと保育士さんが釣りに出掛けたのに続いて、スカウトさんたちも出発した。今日森の探索には理科さんが同行する。「森の生態を確認しておきたい」という理科さんのたっての希望で、今日はスカウトさんたちと一緒に動くことになったのだ。

   畑に行くと、昨日雨が降ったせいで土が柔らかくなっていた。心なしか草も生き生きしてるようだ。その代わり雑草も一気に伸びた気がする。

「昨日のは恵の雨だべさ。あんぐれえの雨なら土も流されるなことはねえからな」

   農家さんは今日は機嫌が良さそうだ。

「今日はおめえは草引き専門な。雨が降ったあとだから、簡単に引けるべ」

    実際にやってみると、背の高い草でもいつもより簡単に引ける。わざわざ草を刈って中途半端に残すより、根っこから引き抜けるならそれに越したことはない。僕は午前中、草引きに没頭した。

    午後になり桂坂さんと「場」に向かう。
そして今日の新人さんは、土木仕事をしているという路木道隆(みちきみちたか)さんだった。

    路木さんは年齢50歳。肩幅の広いガッチリした体格の男性で、筋肉も腕力もありそうだった。土木会社で勤めて30年のベテランで、今では現場監督もやったりしているそうだ。

    路木さんからここに来る時の状況を聞いたのだが、その話の中でや珍しいことが一つあった。路木さんは、奥さんと娘さんとショッピングセンターで買い物中だったというのだ。

    何が珍しいのかだが、今までの例では、ほとんどの人が一人でいるときにこっちに来ていたように思う。もちろん僕もそうだし、桂坂そんやスカウトさんたちもみんなそうだ。それなのに、路木さんは奥さんと娘さんと一緒にいるときに、このアクシデントに巻き込まれたというのだ。

    こちらの世界に来たのは、路木さん一人。奥さんと娘さんの目の前で、急に路木さんが消えるという状況になってるはずだ。
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