異世界転移物語

月夜

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雨の日の仕事

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「あ、雨を受けなくちゃ!」

   料子さんが今思い出したとばかりに手を打つ。

「ビニール袋ですか?」

    僕は何か必要なものがあるなら、と指示を仰ごうとした。

「それもだけど、雨受けの器具を大工さんに作ってもらったの。その下に袋をセットして!」

    料子さんは家の横手に僕を案内した。そこには高さ50センチくらいの木製のロートがあった。

「いつの間にこんなものを?」

「いいから、袋セットして」

    僕は袋を思いっきり広げるとロートの下に袋を取り付けた。幅がギリギリということで、セットするときに袋を開くのに力が要った。確かにこれは女の人ではキツイかもしれない。

 「へええ。よく考えたな」

    見に来たドクターが感心した。雨はそれ以上強くなることはなく、むしろしとしと雨になってきたが、袋には少しずつ順調に雨が溜まってきた。ロートの受けに当たる部分にはラップが貼ってあり、割ときれいな水が溜まるようになっている。

   家の中に入るとみんなひとかたまりに集まっていた。

「ようやく雨が降りましたね」

    僕がそう声をかけると、農家さんが答えた。

「そうやな。まあこの感じだとすぐ止みそうだがな。土が柔らかくなってちょうどいいべ」

「雨水はきれいなんですかね?」

   桂坂さんが疑問を口にする。

「どうだかな。そのまま、口にするのはまずいだろうな。ろ過してから煮沸消毒すればおそらく飲むことも出来ると思うが」

   そう答えたドクターに理科さんが言う。

「水質検査の簡易キットならあるわよ。濃度、pHぐらいなら調べられるわ。細菌検査キットもあるけど、35度で保温しないといけないので出来るかどうか……」

「理科さん、温度計持ってます?」

   僕はふと思いついて尋ねた。

「あるわよ」

   理科さんは研究道具の中から温度計を取り出した。

「今、気温何度くらいなんですか?」

「ええと23度だね」

   適温に感じてる体感温度とほぼ同じくらいだ。暑くもなく寒くもない。夏の初めか終わり頃の気温だろう。そういえばここにきてから正確に温度すら測れないでいたことに今気がついた。

「割と暖かいな」と大工さん。

「今が一日のうちで一番気温が高い時間帯じゃないでしょうかね?」

   ナースさんが言う。

「このくらいの温度なら、細菌数のキットを外に放置しておいても推測値ぐらいなら出せるわ。規定時間を延ばすことになるけどね」

   僕は理科さんの言うことがあまり理解出来なかったが、とにかく色々調べられるのは良いことだ。

「釣りキチさんたち大丈夫かなあ……」

   ふと生果さんがつぶやいた。
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