異世界転移物語

月夜

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振り返り

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   僕はいつものように午前中は農家さんを手伝って畑仕事をした。まだ土作りの真っ只中ではあるけど、苗もあまり置いておけないということで少し前から少しずつ野菜の苗を移植し始めている。

「ちゃんとできますかね?」

「そんなもん、分からん。お天道さんにきいとくれや」

「そういえば雨があんまり降ってないですよね、最近。作物は大丈夫なんでしょうか?」

    農家さんは顔を上げて、呆れ果てた表情を僕に見せた。

「まだ植えたばっかじゃねえか。この間、一回降ったからまだそんなに慌てるこたねえ。それに第一今の季節がいつかも、これから寒くなるか暑くなるかも分からねえんだから、賭けみたいなもんだろ」

    確かに農家さんの言うことはもっともだ。

「だから、こんなんダメ元だべ。うまく出来りゃもうけもんってこった」

    やはり僕は都会育ちだからせっかちなところがある。さすがに農家さんは肝が座っている。多少の厄介ごとがあろうが、我慢強く対応していけるような貫禄がある。僕も歳をとればああいう風などっしりした男になれるだろうか?

「こんな時に、下手にゲリラ豪雨だなんだと降られてみろ。せっかく苦労して作った畑もあっという間に台無しだべ」

    元の世界では地震も多くなっていたが、異常気象も深刻になりつつあった。日本各地でゲリラ豪雨もたびたび起こるようになって、その度に大災害が発生していた。そんな時にここに飛ばされたのだ。

     今のように雨は少ないが安定した気候で暮らせることには感謝すべきなのかもしれない。雨だってそのうち降るだろう。

     僕の近くでは、ナースさんや桂坂さんが畑仕事でいい汗かいていた。彼女らに言わせると、とてもいい気分転換になるそうだ。僕にはまだそんな感じはないけれど。

    午後から僕と桂坂さんは場に向かった。その途中でどういうきっかけか、今までの転移者の経過の話になった。桂坂さんは、来た順番がどうだったか、そろそろあやふやになってきたらしい。

    僕は数日前から名簿作成やら今までの出来事の記録を取り始めたので、その辺の記憶はばっちりだ。

「最初に来たのが僕だろ。次が桂坂さん。その次がスカウトさん。四番目が釣りキチさん。そこまではいいよね?」

「ええ。その頃は強烈なイメージで覚えてるから間違えようがないわ」

「五番目は料子さん、六番目が農家さん、そして七番目がナースさん」

「ああ。農家さんが腹を壊したときね」

「そう。グッドタイミングだった。それから八番目が生果さん、九番目が自転車君」
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