異世界転移物語

月夜

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食料補充

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「その袋の中には何が入ってるの?」

    一通り自己紹介し合ったあと、生果さんが保育士さんの袋を見て尋ねた。

「あ、これですか」

    保育士さんは袋の中のものを取り出した。

「緊急時の非常食として、保育園でもストックしてあるんですが、その補充用に買ってきたものなんです」

「おお!  ザ・非常食って感じですね」

    僕も非常持ち出し袋を持ってきたので、なんとなく親近感が湧いてきた。

「アルファ米にビスケット、フルーツ缶に野菜スープ缶、みそ汁缶、それに飲料水ですね。それから懐中電灯と予備の電池もあります」

    保育士さんが袋から出して並べたものを、生果さんが列挙してゆく。

「保育園だから粉ミルクとかかな、と思ってました」

    桂坂さんがちょっと意外だという顔をした。

「あ、もちろん粉ミルクとかも常備してるんですよ。これは足りなくなったものの補充なので……」

    保育士さんが弁解するように言う。

「このビニール袋もここじゃ貴重なのよね」

    料子さんが買い物袋をヒラヒラさせた。確かに前の世界でも、主にプラスチックゴミによる環境破壊を防ぐために有料化になったりしてはいたが、ここではそもそもビニールそのものが存在しない。軽くて破れず、変形も自由自在な素材など他にはないのだ。あらためてプラスチックを発明した人類はすごいと思った。

    何人かこちらの世界に持ってきたので、すでに数枚溜まっている。この世界にきてから、自分自身も物を大切に使うようになったし、また考えながら使うようになったのは、自分にとって良い変化だと思う。

「夕食のときに、少しずつ食べていくようにしましょうか」

    料子さんが夕食前にみんなに言った。缶入り品は長く保存がきくので、本来は最後の最後までとっておくというのがセオリーのような気もするが、食卓にほんの僅かでもちょっと豪華さが加わるだけで気分的にも全然違うから、という料子さんの説に、結局のところみんな賛成した。

    そういうわけで夕食の時には、フルーツ缶を一つ開けて食べた。さすがに全員で食べるわけにもいかなかったので、半分のメンバーで缶の中身を分け合って食べた。僕も最古参の特権で食べさせてもらった。久しぶりのフルーツでとても美味しかった。

 「なんか皆さん、手に職という感じですごいですね。私なんか何の役にも立たないかも、です」

    夕食の際にお互いのことを話している最中に保育士さんが漏らした言葉である。料理研究家である料子さんや大工さん、農家さん、あるいは家政婦である生果さんなどの話を聞いて、保育士さんは自信をなくしたようだった。
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