異世界転移物語

月夜

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リーダー

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     スカウトさんの指摘は納得できる。人間は確かに心の持ちよう次第で、あっさりと崩れもするし、一方でどんな困難をも乗り超えることも出来る存在だ。信じれるものが何もない今の状況で、仲間を信じて常に前向きに生きる意志を持ち続けることが僕たちにとっては一番必要なことかもしれない。

「健太、俺はな、一つ考えてることがあるんだ」

    スカウトさんは、少しあらたまった風でそんなことを言った。

「なんですか?」

「人数ももうすぐ十人を超える。そうなると全員でいつも話し合っていくのも段々と難しくなってくるだろ。だから、そろそろ俺たちのリーダーを決める必要があるんじゃないかと思うんだ」

    意外だった。まさか、スカウトさんがそんなことを言い出すなんて。

「リーダーはスカウトさんじゃないんですか?」

    僕は間をおかず返した。実際に僕は今までそのつもりでいた。今までの全ての行動を決めるに当たっては、スカウトさんの見識に従っていれば間違いないように思え、実際そうしてきた。これからもきっとそれでうまくいく。漠然とそう考えていたのだが。

「いや、俺はリーダーには向いていない」

    スカウトさんは、小さな声だがはっきりと言い切った。そんな馬鹿な。スカウトさんほどの人が向いてないなんて有り得ない。僕は咄嗟にそう思った。

「お前の言いたいことは分かる。確かに俺はボーイスカウトで子供たちの指導をしてきた。経験、という意味では今いる中で最もあるかもしれない」

    そうだ。その通りだ。なのになぜ……

「だが、それはあくまで子供たちを引っ張って来れたに過ぎない。大人の集団とは違う」

    そんなことはない、という言葉が喉まで出かかったが、すぐにスカウトさんが先を続けたので、それは声にならなかった。

「大人の集団、そのリーダーに求められるのは、優れた調整力だ。もちろん判断力も必要だが、それはメンバーの中から優れた意見を拾い上げればなんとかなる。むしろ、食い違う意見がある中で、バランスを考慮し、人間関係を汲んで、みんなが納得するような的確な運営をしていく能力が必要だと思うんだ」

「それはそうですが……」

    僕もスカウトさんの考えには賛成だ。確かに、争いの怒らないようバランスよく調整していくことが大事だと思う。でも……

「それなら、やっぱりスカウトさんが適任じゃないですか!」

    スカウトさんは黙って首を振る。そしておもむろに言った。

「いや、俺には無理だ。そんな細やかな芸当は俺には出来ない。こう見えて大雑把な性格なんだ」

    真面目な顔して、冗談とも本気とも言えない自己評価をされると、こちらも何と答えていいか、困ってしまう。
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