異世界転移物語

月夜

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生果さん

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「そうなんです。私たちも同じようにいきなり飛ばされてこの世界に来ました。ですが私たちもこの世界の正体についてはよく分かっていません。ここがいつの時代で、日本なのかどうかも」

「どういうことです?」

女の人は最初こそ混乱していたが、会話を始めてみるとなかなか理路整然と考えられる人であると分かった。異世界だということをとりあえず理解した彼女に、僕らは
さらなる詳しい情報を伝えた。

「では、私以外に七人の皆さんが先にここでの生活を始めてらっしゃるということですね」

「ええ、そうなんです。なんとか最低限の生活は出来てますが、やはり色々不便なことも多いです」

「とりあえず、そこに案内してもらえます?」

     来訪者のほうから望んでくるのは初めてだ。この人はなかなかどうして理知的で冷静な女性なのかもしれない。見た目はそんなに鋭さはなく、ぽわーんとした感じなのだが。

    僕たちは三人で家に向かった。道すがら話したところによると、彼女の名前は「島津生果(せいか)」、職業は家政婦さん、年齢は四十ちょうどらしい。予想通り、買い物途中で、目眩に襲われたらしい。結婚して旦那はいるが、子供はいないとのことだ。

    集落に入って行くと、畑仕事をしている農家さんがいた。黙々と草を刈っている農家さんの集中力を途切れさせるのも悪いので、僕らは特に声をかけず、家に向かった。家に着くと、料子さんやナースさんが出迎えてくれた。

 「あらまあ、また女の人なのね」

    料子さんが嬉しそうに言う。料子さん、ナースさん、生果さんは互いに挨拶を交わし、自己紹介し合った。そのあと、家に入ったが、僕は生果さんが運んできたカートの中身が気になった。

 「野菜とかいっぱい入ってるんですか?」

「そんなことないわよ。野菜は上のキャベツと玉ねぎだけ。あとは生活用品よ」

    生理用品もあるとのことなので、中身の確認は女性陣に任せて、僕は隣の家で修理をしていたスカウトさんに声を掛けに行った。

    スカウトさんと一緒に家に戻ると、女性陣はのべつ隈なく、嬉しそうな顔をしていた。

「これは助かるわよ」と料子さん。

「一体、何があったんです?」

    僕は答えてくれないかな、と思ったが一応訊いてみた。

「色々。トイレットペーパーにティッシュ、ウエットティッシュ、アルコールスプレー、洗濯用洗剤、食器洗浄用洗剤、シャンプー、リンスに石鹸まで。その他にもちょこちょことね」

「へええ。それはすごいですね」

    僕は素直に感心した。痒いとこに手が届くというか、今まで後回しにしてきた生活用品がいくつか揃うことは喜ばしいことだ。特に男の自分ならあまり気にならないが、女性にとっては気になるところだろう。
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