異世界転移物語

月夜

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グッドタイミング

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「ちきしょう。俺たちにはどうしてやることも出来ねえ。このまま様子を見るしかないのか」

「しばらく安静にするのが最善でしょうかね」

    桂坂さんも医学の知識はなさそうだから、皆対応に困っている状況だ。

    思わぬトラブルに見舞われたためバタバタしていたせいで、僕は時間のことをすっかり忘れていた。時計を見たときにはもう1時までわずかだった。

「もう時間ですけど、どうしましょう?」

    僕はスカウトさんに指示を仰いだ。

「ここにいたって何も出来ねえ。農家さんのことは俺と料子さんでみてるから、健太と優子ちゃんは予定通り行ってくれ」

「分かりました。桂坂さん、ちょっと急ぐよ!」

    僕は桂坂さんを促して急いで家を出た。

「ごめん。先に行くよ」

    出現時間に遅れるのはよくない。下手するとどこかに移動して会えなくなるおそれもあるからだ。僕は桂坂さんを置いてでも走って行ったほうがいいと判断した。久しぶりに森の中を全力で駆けた。

    例の場所までたどり着いたときには、すでに次なる来訪者が姿を見せていた。ただまだ白い靄の残骸らしきものもあり、それは到着したばかりというのを物語っていた。

     新しき人は、驚いたことに白い服を着ていた。ナース服だ!  ケースも抱えている。

「あの……」

    僕は急いで駆け寄ると、なるべくびっくりさせないようやんわりと声を掛けた。

「あっ」

    僕の声を聞いて振り返った彼女は驚いた声をあげた。

「あなたは……」

「僕は怪しいものじゃありません。田所健太っていいます。ちょっと驚いたと思いますが、冷静に聞いてください」

    僕は手短に状況を説明した。彼女は大人しく聞いてくれた。こんな訳の分からない場所に放り出されて、とりあえず、話を聞かなければと思ったのだろう。
   
    そうこうしているうちに、桂坂さんが追いついてきた。新しい彼女は、桂坂さんの姿を見て、少しほっとした表情を見せた。やはり、同性の存在は安心するのだろう。
桂坂さんからもあらためて説明を受け、彼女はようやく今の事実を理解したようだ。

「私は深沢亜希っていいます。看護士やってます」

「ナースさんですよね。そしたら丁度いい。僕たちと一緒にいますぐ来てもらえませんか」

    僕のいきなりの発言に、亜希さんは警戒する様子を見せた。森の中の白衣の天使というのは、ややシュールな光景ではあるが、これが紛れもない現実だからおそろしい。

「ちょっといったところに家があって、そこに仲間がいるんですが、さっき急病人が出ちゃって。あなたに診て欲しいんです」
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