異世界転移物語

月夜

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五日目の夜

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   料子さんはとても明るい人だった。話もうまく、時折冗談も絡ませる。そのおかげで僕たちは久しぶりに、閉ざされた森の中にいることをしばらくの間忘れさせられるぐらい楽しい時間を過ごせた。

「これで五人だが、今夜は男女別れて寝るか?」

    夕食後、スカウトさんがみんなに訊いた。

「それは隣の家も使うってことですか?」

「ああ、そうだ」

「スペース的には七、八人はいけると思うんですけどね」

    僕は部屋を見回しながら答えた。

「僕も一緒でもいいかな、と思うんですが。安全面の心配もありますからね」

    釣りキチさんが僕の意見に同意した。結局、女性陣がどう考えるかにかかっている。

「料子さん、どうしましょう?   昨日までは私、一緒に寝てたんですけど」

    桂坂さんは料子さんにお伺いをたてるように話しかけた。

「そうね。隣で女二人で寝るのも、ちょっと怖いかもね。でも、優子ちゃんの判断に任せるわ」

    下駄を預けられる形になった桂坂さんは、しばらく迷ったあと、口を開いた。

「まあ、これからどんどん人が増えてくるわけですし、今、慌てて分ける必要はないのかな、と思います」

    こうして、今日も男女五人が一軒の家屋で身を寄せて眠ることになった。

「あ、そうだ。みんなスマホとかどうしてるの?」

    はっと思いついたように、料子さんが言った。

「僕のはもう電池切れそうですね。ほとんど使ってないんですが」

   桂坂もかなり電池が減っているという。スカウトさんと釣りキチさんは、まさかのスマホ不所持だった。一番、必要であろう二人なのに意外だった。

   よくよく聞いてみると、釣りキチさんは現在修理に出してる途中で、スカウトさんは持ってるけど家に置いておくことが多いそうだ。僕ら若者のようにスマホなしでは生活出来ないというわけではないようだ。この辺りは世代の違いなのかも知れない。

「電波が繋がらないのはわかるけど、オフラインで使えるアプリとかカメラとかメモとか、結構使えるんだよね?」

    料子さんは年齢の割に、モバイルも普段からよく利用しているみたいで、少し驚いた。

「私、モバイルバッテリー持ってるんだけど、一緒に充電する?」

    料子さんからの思わぬ提案に、僕と桂坂さんは顔を見合わせた。

「満充電してあるから、スマホ4回分は充電できるはず」

    僕らの戸惑うのも構わず、料子さんは説明を続けた。

「もちろん、ここでは充電出来ないから、使ってしまったら終わりだけど、いざという時のためにしといたほうがいいと思うんだけど」

    料子さんの考えは理に適っている。モバイルバッテリーも、使ってしまえば、ここでは電源がないので、それっきりになってしまう。それでも、僕と桂坂さんのスマホを使える状態にしておくことで、何かの役に立つかもしれない。僕らはお言葉に甘えて、料子さんのモバイルバッテリーを使わせてもらうことにした。
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