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釣りキチさんと僕
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僕は釣りキチさんと共に、午後は湖で魚釣りに励んだわけだが、実質僕は何もしていない。釣りキチさんのプロの技を眺めていただけだ。
釣り場を選ぶところから念入りにやっていた釣りキチさんは、ここという釣り場を決めるとすぐ用意して、釣りを始めた。
僕は釣りは全然やらないので、面白さがまったく分からないのだが、釣りキチさんに言わせると毎日延々とやっていても全然飽きないらしい。
同じ場所でじっとしてるなんて、眠くならないのかな、と思ったが、釣りキチさんに言わせると、竿の具合や魚の様子を見ながらやってるとすぐに時間が経ってしまうそうだ。そんなものなのかな、と思った。
僕は前半だけ一緒に見て、後半は地理の把握のため、湖の周りを少し歩いてみた。僕が見ていた間にも釣りキチさんは何匹か釣っていたので、今夜も食事の心配はせずに済みそうだ。
湖の周りはとにかく高く丈夫な草が茫々で、視界も悪く、なかなか湖岸に近づけない。釣り場に適してる場所も、実際のところかなり限られている。湖の周りを歩いてみたものの、たいして収穫はなかった。どこかにボートでもないか、と思ったが、そんな都合よくいくわけなかった。
少し暗くなり始めたので、釣りキチさんに声をかけに行くと、既にもう帰り仕度を始めていた。
「もう少し、冷やせるといいんだが」
釣りキチさんがクーラーボックスを恨めしそうにみる。冷蔵庫も冷凍庫もないので、こういうときは困る。
「今の季節ならまだなんとかなるが、夏だとなあ……」
今は気候で言えば、おそらく春か秋。これから夏に向かうのか、冬に向かうのかはまだ分からない。夏も冬も生活するのに厳しそうだ。
「釣りキチさんは、普段は何の仕事をしてるんですか?」
僕は帰る道すがら、釣りキチさんと話をした。
「ただのサラリーマンさ。メーカーの営業。まあ、ルート営業ばかりで新規開拓とかしなくていいから割と楽な仕事だよ」
釣りキチさんは悪びれずに言う。
「働いてても、釣りの時間とか取れるんですか?」
僕は素朴な疑問をぶつけた。
「うん。一応、週休二日だから、土日は釣り三昧だね」
「いいですね!」
僕は心底、趣味に打ち込めるなんて素晴らしいと感じた。
「健太君は大学生だったよね。どこに就職するつもりなの?」
いきなり釣りキチさんは話題を変えてきた。僕にとってはやや困ってしまう質問だ。
「実はまだ決めてないんです。文系なんで、どこかの営業職かなあ、と漠然と思ってるくらいで」
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