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■第2章 少年期 冒険編

✦第8話「一人の魔人と二匹の魔物?」

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✦第八話「一人の魔人と二匹の魔獣」

「ニコッ!」


 意識が浮上し、ガバッと起き上がる。
 目が覚めた。 
 近くで、ザパァン ザバーンと、波のような音がする。
 それに、空が明るい。
 どうやら、朝になってしまったらしい。

「俺はどのくらい眠っていたんだ?」

 ふと、周りを見てみる。
 背面は激流の河、両側には荒々しい岩の露出した崖。
 この先には、薄暗い森が広がっていた。

 ニコは……いない。
 嵐の中、俺だけ運よく、川辺に流れついたらしい。
 しかし、二コとショウもまだどこかで生きている可能性は高いと思う。

「ニコ……ショウ……」

 俺はうつむいた。
 俺ははぐれた仲間の名前を呼びながら、小さな声を振るいだし、大粒の涙を流した。
 言葉にならないほどの寂しさが胸を突き刺す。
 なんだかんだ言って、俺はニコ達に勇気づけられていた。

「いったいどこにいるんだよォ!」

 そう、叫んではいるが俺の声は、風にかき消される。



 父も母も、国民も、皆もう、この世にいない。
 いなくなってしまった。
 昨日まで、いたのに。

 前世では、父と母になんの思い入れもなかった。
 でも、今は違う。
 親の愛、というものを今日理解した。
 母さんも父さんも僕をかばって死んだ。
 自分の命よりも他人の命を優先したのだ。
 俺を……愛していたのだ。


 ――もしかしたら、前世の両親もどこかで俺のことを愛してくれたのかもしれない。

「……悪夢みたいだ」

 しかし、河に流された時に漂流物とぶつかったであろう痛みがこの瞬間は夢ではないことを物語っていた。
 もう、俺には何もなくなってしまった。
 王子としての役割も、友達も、両親も。
 あるのは、逃げるとき、咄嗟に服の中へ隠した『万象の魔導典 第一巻 攻撃魔術編』くらいだ。
 殆どを失ってしまった。

「これから、どうしろっていうんだ」

 俺はそうこぼした。
 毎日、メイドさんが料理を持ってきては勉強をして剣術の訓練、魔術の練習をする。
 それが日常。
 そんな日常をたったの一晩で壊された。
 日常というのが、どれだけもろくて壊れやすい土台の上に乗っかっているのかがよくわかる。

(……思えば、毎日、料理が勝手に出てくるのがとてもありがたいことだったんだなぁ)

 大切な物ほど、なくなって初めてその大切さに気が付くんだ。
 前世が奴隷だったというのに、そんなことも忘れてしまうとは。

 ――王国が滅びたら、俺の持っているものがほとんどなくなってしまった。

 もしかしたら、俺が自分で手に入れてきたと思っていたものは、王子の身分がもたらしてくれていたんじゃないだろうか?
 俺が普通の王族でも貴族でも何でもない平民に生まれていたら、もちろんメイドさん達はいないし、昔の性格だったら、友達もできなかったかもしれない。



 生きてても、無駄かもしれない。
 きっと俺は何しても失敗して、躓いて、いつか立ち上がれなくなる。
 ただダラダラ生きて何も残せずに……。
 いっそのこと、今、死んでしまおうかな。

 ――託した。


 いや違う。
 これから……これから、始まるんだ。始めるんだ。
 王子という身分から墜ち、ゼロから。
 俺が真にウィルソン・ライトとして生きる物語が……。


 父さんは親の義務を果たして、俺を身を挺して守ってくれただろう。
 今度は僕が子供として、王子として、義務を果たす番だ。

 俺は涙をぬぐった。
 そして、立ち上がり、森へ歩みを進めた。
 堂々と一歩一歩を噛みしめながら。

「俺は必ず、ライト王国を、奪還する」

 ★ ★ ★

 薄暗い森。
 そこは、不気味なほどに静かだった。
 魔獣や獣もウロウロと徘徊している。
 ちなみに、魔獣と獣の違いは、魔獣は獰猛なものが多く獣は温厚なものが多い、ということらしい。
 前世にいたような動物が獣で、その獣が魔力で異常を起こしたのが魔獣というわけだ。

 俺は今、そんな森の焚火前で腰を下ろして休息をとっている。
 焚火が、薄暗い森の中でゆらゆらと揺れていた。
 その暖かな光が、周囲の闇をやわらげ、少し安心感を与えてくれる。
 燃える木の香りが漂い、空気は心地よく温かい。
 静かな夜の森に、焚火の音と暖かさが満ち溢れている。

 ――そんな時、草むらから、ガサガサという音が聞こえた。
 俺は身を乗り出して、不意をつく者がいないかと周囲を警戒した。

 俺は、草木をかき分けながら、森の外へと向かおうとしていた。
 移動していると、一際大きな犬型の魔獣が堂々と歩いていた。





「うわッ」
「ワン!」

 そのデカさに驚き、声をあげてた。
 普通の魔獣には見えない。
 俺は、そんな犬型の魔獣と目が合ってしまった。

「どうした~♪
 ゲレンゴ~?」
「ウ~、ワン!」
「人間か~……。ニコ……いやウィルソンってぇのか。
 なるほど。
 こりゃ、めんどいな……♫」





 ゲレンゴ、と呼ばれる魔獣は右に顔を向けた。
 横からやってきたのは、黒い髪に赤い瞳。
 頭には小さな角が生えている。
 人間か? ……いや人のそれとは雰囲気が違う。
 たぶん、ジャゴンズと同じ、魔人だ。

 俺は剣を構える。
 それを見て、その魔人も戦闘態勢だ。
 互いに向きあう。
 見るからに悪人面だ。

「そういうお前は魔人か!?」
「……さあなっ♪」

 ! ごまかした。
 きっと、ライト王国を滅ぼした、魔人の一角に違いない。
 こんなところで会うことは想定外だったが、国の仇だ。
 俺は魔術を使うため、手へと魔力を流す。
 使うのは『火弾ファイアボール』。

 ありったけの魔力を込める。
 俺が今できる最大の強度、大きさ、速度で打つ。

「火の精霊よ、魔の世界より力を授け、その力を、広大な土地へと振るい、敵を焼き尽くさんは『火弾ファイアボール』」

 それに反応し、魔人は右手を掲げる。
 その手には矮小な石が捕まれていた。
 投石である。

 俺の魔術が石に相殺された。

「でも、ちょっとは当たったよな?」
「きかねぇぜ♫」
(なんてタフさだ)

 魔術のリロードをする。
 そこへ……。

「ちょっと待ってほしいんダヨ!」





 今度は青い塊がどっかからぶっ飛んできた。
 どうやら一人の魔人と二匹の魔獣は仲間のようだ。
 そして、俺たちの間に割って入る。 
 青いボディに黄色く光った目。
 粘体族スライムだ。なぜか、人語を話している。
 もう、何が何だかわからん。
 しかも青い帽子をかぶってる。

「彼はきっと、敵じゃないと思うんダヨ」
「……その確証は~?」
「ボクの勘、なんダヨ」
「信用できないな♪」

 何やら、魔人と粘体族スライムで口論が始まった。
 というか、なぜ、こんなところに魔人がいるんだ?
 魔人と粘体族スライムが話していると、何かに気づいたようだ。

「おい!
 テメェはここで一体、何をしていやがったんだ~♫」

 と、俺への尋問が始まった。

「ッ! 王国が滅ぼされて……
 流されて……
 気が付いたら、ここに流されたんだ」
「なるほど、俺らとほぼ同じっか……
 悪かったな」

 俺は剣を鞘へと滑らせた。

「あんた達は?」
「俺は、ブラディ。
 つい先日、研究所が破壊されて、逃げ出してきた♫
 それしか覚えてねっけどな♪
 まぁ、記憶喪失ってヤツさ」
「ボクはシルキー。
 悪いスライムじゃないんダヨ。
 喋れて、とってもおりこうさんなスライムダヨ。
 そして、こっちはゲレンゴ。
 ボクとブラディになついている魔獣なんダヨ」
「ワウォン」

 話の流れから、察するにライト王国の研究所に捕まっていた魔族……ということか。
 ゲレンゴと呼ばれる獣の体が縮んだ。

「まぁ、お前、身なりを見るに、貴族とかのお坊ちゃんだったんだろ♫
 それなら、さっきのことは水に流してやるぜッ!
 お前の旅の目的はなんだ?」


 そんなの決まっている。
 ライト王国を奪還すること。
 だけれど、それを魔族のこの人たちにいうのは気が引けた。

「……」


「なら一緒に来ないか♪」
「ちょうど、人手が欲しかったとこだったんダヨ
 このメンバーじゃ心細くて、魔術師がもう一人ほしかったんだ
 お前だって一人じゃ不安だろ?
 一緒について来いよ♫」


 ブラディとシルキーとゲレンゴが 仲間に加わった!
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