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■第1章 幼年期
✦第7話「掴めなかった手」
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✦第七話「掴めなかった手」
「ガルルルル」
「なんで、ここに魔物が!?」
「わかんない!」
『魔物図鑑』で見たことがある。
確かそう、長く強靭な牙で気性の荒い牙狼だ。
危険度はS級からG級まであるうちの、B級だったはず……。
なぜ魔物がこんな城の中に!?
「光の精霊よ、天の世界より力を授け、その強大な力を、矮小な土地へと振るい、敵を打ち砕かん『光玉』」
魔力を多く込め、範囲を狭めた『光玉』で相手に目くらましをした。
「土の精霊よ、魔の世界より力を授け、漆黒に染まる杖を創造せん『土弾』」
そして、初級の土魔術、『土弾』の応用で、土を硬く固めた棒を作った。
「おりゃ!」
もちろん殴るために作った。
杖は殴るためにあるのさっ♪
って、そんな冗談を言っている暇はなかった。
「ぐぎゃ!」
魔物は何とか倒した。
!! 怖い。
剣ではなく棒だったので、絶命させるには至らず、気絶した。
「ニコ、ここは危ない。
いっかいここを離れよう」
「うん……」
『万象の魔導典 第一巻 攻撃魔術編』を服の中に入れた。
歩こうとする。
しかし、あ、足の震えが止まらない。
うまく歩けない。
「足。足。
ちゃんと動け!」
まだ、僕はトラウマを乗り越えられない。
人間というのは簡単に傷を負う。
体も心も……。
そして、なかなか治らない。
六年。六年だ。六年の月日がたったというのに、まだ一向にこのトラウマが治る気配がない。
「……」
ふと、ニコのほうを見る。
ニコの足も震えていた。
そうか、ニコも……。
それがわかると、少し安心した。
「うわぁ!」
何か爆発音が聞こえた。
ただ事ではない。
この城で一体何が起ころうとしているんだ。
「な、何!
……あれ? ウィル、こ、怖いの?」
「う、うん」
「大丈夫。私も怖い」
一体何が大丈夫なんだろうか。
まぁ、ニコなりの気遣いだと受け取ろう。
二人で支えあえば、へっちゃらだ。
「それじゃあ、一緒に行こう」
「二人なら、戦えるよね」
そんな時、ガチャガチャガチャ。ポキポキ。と、骨がぶつかったり、指が鳴るような音がした。
「ちょっとウィル。
変な音出して私を脅かすつもり?」
「えっ、僕何もしてないケド」
「じゃあこれは何の……?
きゃあ!」
二人はお互いの手を握りしめ、少しでも力を分け合おうとする。
僕とニコは陰に隠れながら、音の出どころを調べた。
そこには、大勢の死骨族が武装して列をなしながら行進していた。
「がががが、骸骨?!」
「シーッ
バレちゃうよ
反対方向へ逃げよう」(ヒソ
ニコは首を縦に振った。
しかし……。
「ちょっと? 反対側にも……骸骨が……いる」(ヒソ
ヤバい。
囲まれたみたいだ。
この数を相手に……。
! 足音が聞こえてきた。
「ウィル! 大丈夫か?!」
あれ? ……父様だ。
父様が助けに来てくれたのか。
父様は、死骨族を引き寄せ、僕らから遠ざけた。
「先に行くんだ!
私は後で行く!」
父様は、魔術を利用し、敵をどんどん討ち果たしていった。
「私の部屋にこういう時のための隠し通路がある。
ミリア!!」
「うん、まかせて!」
父の後ろにいた母様が姿を現した。
「さあ、母さんの後ろに隠れながら、進むんですよ?!」
「……」
母様は僕の手を無理やり引きながら逃げ始めた。
父様へ謝罪をすることもできずに……。
道中、様々な魔物が襲ってきた。
緑鬼族や粘体族、喰人族などだ。
皆で束になりつつも立ち向かったり、逃げたりした。
そして、父様の部屋についた。
棚には、白髪の小さな子供が寝ている絵画がかけてあった。
髪が白い。ということは……。
「ウィル?
どうしたの?」
「この絵は……」
「これは、生まれたばかりにあなたを描いた絵ね。
あの人、あまり表に出さないけど、あなたのこと大好きなのよ。
あなたが、生まれる前は、あの人もっとおちゃらけた感じで、王様っていう感じじゃなかったけど、あなたが生まれたから、ちゃんとした王様になろうって頑張ってたのよ。
まぁ、空回りしていることも多かったけどね」
「……」
そうだったのか。
父様はずっと昔から、ああいう感じだと思っていた。
「ッ! 魔物!」
「ウィルー!!」
後ろには、この世のものとは思えないほど、まがまがしい雰囲気を纏った魔人がたっていた。
ライオンの特徴も混じっている。
その手には大剣を持っていた。
僕はそいつに、グンッと後ろへと引っ張られた。
「グハハハハ。間抜けだな。
このガキを殺されたくなかったら、動くんじゃねぇ。
少しでも動いてみれば、このブラック王国の将軍、ジャゴンズ様がこのガキの首を掻っ切ってやる」
「クッ! ウィル!」
「おい、そこの女!
さっき、俺様のことを魔物だといったなぁ。
俺は魔物ではない!
魔物より上の存在、『魔人』だ!」
首に剣を押し付けられる。
――怖い。
ちびっちゃいそう。
ジャゴンズは、僕のことを持ちつつ、母様やニコととの距離をじりじりと詰める。
ジャゴンズが、剣を振りかぶった。
そこへ……。
「くたばれ、くそ野郎!」
「私の家族に手を出すな」
「ショウ……ラセフ……」
我らがヒーロー、ショウと父様がやってきた。
ショウが剣を持っているからか気性が荒くなっている。
それにしても、僕らは何回ショウと父様に助けられているんだ!?
「ウィル、今助けてやる
水攻撃魔術『激浪』!」
「覚悟!」
「ぐわぁあ!」
ジャゴンズは、僕を離した。
あれ? 父様、詠唱していなくないか!?
威力も通常の魔術に比べて高くなっているし……。
「いってぇ
! ……なかなかやるな!
俺様も魔術を使ってやる。
風攻撃魔術『狂響』
ガゥヲオオ!」
地響きが鳴った。
ものすごい、風が部屋全体に吹き荒れる。
ガッシャンと窓ガラスが割れた。
「ウィル。大丈夫か?
このままだと、マズいな。
城が一部崩れ始めてしまう」
僕は、父様の言葉に耳を傾け、周りを見渡した。
確かに、ジャゴンズの魔術によって、城の一部が崩れ始めていた。
「このままでは、皆瓦礫につぶされてしまう。
私を置いて、先に行くんだ!」
ジャゴンズが今度は、詠唱を始めた。
「俺様も、本気を出してやるぜ。
風の精霊よ、魔の世界より力を授けろ!!
風攻撃魔術『狂響』
ガゥヲオオ!」
尋常ではないほどの、魔力がジャゴンズへと集まっていった。
そして、尋常ではないほどの魔術が僕たちを襲ったのである。
ジャゴンズを中心として、とてつもない風が吹き荒れる。
建物がみしみしと言っている。
――ドシャア。
天井が半壊し、瓦礫が、落ちた。
このままでは、皆ぺしゃんこになる……!
「お前たち!
生き残れよ!」
父様、いや、父はそういうと、魔力をありったけ、手に注ぎ衝撃はを放った。
僕とニコと母様は、衝撃波によって、部屋の中へと押し込まれた。
父《・》は言った!
「ウィルソン。たった一つ、俺からお前への最後の願いだ。
……幸せになれよ」
「託した」
と。
――グシャリと、何かがつぶれる音とともに、部屋の入口に瓦礫が積もり塞がれた。
そして、それが父と僕の最後の会話となった。
そうして、僕らは隠し通路を通り、城を抜け出したのであった。
★ ★ ★
…………………………………………………。
…………………………………………………。
…………………………………………………。
僕とニコと母。
たった三人になった。
ショウはもしかしたら、まだ生きているかもしれないが、今、僕たちは三人だ。
……父の犠牲を無駄にしてはいけない。
「! 追手が来てる」
ニコが声を上げた。
ふと、背後を見てみると魔物が追いかけてきている。
まるで、本物の馬のような見た目だが、馬と違う点があるとすればそれは首から上が存在していないことだろう。
一体どういう体の構造をしてるんだよ!?
しかも、こっちへと猛スピードで迫ってきている。
「しょうがないわね。
私がおとりになるわ」
「あなたたち!
木の陰に隠れてなさい!
雨だから見つかりっこないわ!」
「でも……」
「でもじゃない!
もう……仕方ないの。
あなたたちだけでも生き残って」
「!」
「じゃあ、私はいくわね」
僕達は木の陰へと隠れた。
そして、母の方向へと向かっていく。
人間が、仮にも馬の脚にかなうハズがないのに……。
「ウィル!
まだ追手が……
さっきの馬の魔族よりかは数は少ないけど」
……もうだめかもしれない。
★ ★ ★
僕らは、走った。全力で走った。
しかし、人間が魔物の身体能力に勝てるはずもなく、無数の追手に囲まれた。
後ろは断崖絶壁。
下には雨で増水している河が流れている。
(これが背水の陣か)
父様も母様もショウもいない。
今のままじゃ、死ぬ。確実に死ぬ。断言できる。
僕には魔物に打ち勝つ力はあるはずだ。
毎日を勉学と訓練に費やしてきた。
勝てないわけじゃないはずだ。
でも、『勇気』ただそれだけがない。
今だ。今この瞬間、勇気を振り絞り、ここでトラウマを克服しなければいけない。
そうじゃなきゃ、さっきのように、大事な人を失ってしまう。
変わるなら、今ここだ。
「ウォオオ!」
俺は雄たけびを上げつつ魔力を集め、後ろを振り返った。
「僕……いや、『俺』は君を守るため、戦うよ」
――その時、魔術の革新に一歩近づいた気がした。
「光攻撃魔術『閃光』」
僕の手から、まばゆい光とともに衝撃波が放たれた。
いつもの魔術の威力とは段違いだ。
魔物のうち、数十体が闇の粒子となって消えた。
「キャッ」
「えっ」
ニコのほうを見ると、雨で地盤が緩んだのか崖の一部が崩れていた。
そして、ニコが足を踏み外し、崖の下へ落ち始めていた。
僕はニコのほうへ手を伸ばしながら跡を追うように落た。
そうして、僕とニコは、暗闇の広がる、激流の河へ落ちていったのだった。
ニコの手をつかむことは……。
…………………………できなかった……。
…………………………………………………………。
「ガルルルル」
「なんで、ここに魔物が!?」
「わかんない!」
『魔物図鑑』で見たことがある。
確かそう、長く強靭な牙で気性の荒い牙狼だ。
危険度はS級からG級まであるうちの、B級だったはず……。
なぜ魔物がこんな城の中に!?
「光の精霊よ、天の世界より力を授け、その強大な力を、矮小な土地へと振るい、敵を打ち砕かん『光玉』」
魔力を多く込め、範囲を狭めた『光玉』で相手に目くらましをした。
「土の精霊よ、魔の世界より力を授け、漆黒に染まる杖を創造せん『土弾』」
そして、初級の土魔術、『土弾』の応用で、土を硬く固めた棒を作った。
「おりゃ!」
もちろん殴るために作った。
杖は殴るためにあるのさっ♪
って、そんな冗談を言っている暇はなかった。
「ぐぎゃ!」
魔物は何とか倒した。
!! 怖い。
剣ではなく棒だったので、絶命させるには至らず、気絶した。
「ニコ、ここは危ない。
いっかいここを離れよう」
「うん……」
『万象の魔導典 第一巻 攻撃魔術編』を服の中に入れた。
歩こうとする。
しかし、あ、足の震えが止まらない。
うまく歩けない。
「足。足。
ちゃんと動け!」
まだ、僕はトラウマを乗り越えられない。
人間というのは簡単に傷を負う。
体も心も……。
そして、なかなか治らない。
六年。六年だ。六年の月日がたったというのに、まだ一向にこのトラウマが治る気配がない。
「……」
ふと、ニコのほうを見る。
ニコの足も震えていた。
そうか、ニコも……。
それがわかると、少し安心した。
「うわぁ!」
何か爆発音が聞こえた。
ただ事ではない。
この城で一体何が起ころうとしているんだ。
「な、何!
……あれ? ウィル、こ、怖いの?」
「う、うん」
「大丈夫。私も怖い」
一体何が大丈夫なんだろうか。
まぁ、ニコなりの気遣いだと受け取ろう。
二人で支えあえば、へっちゃらだ。
「それじゃあ、一緒に行こう」
「二人なら、戦えるよね」
そんな時、ガチャガチャガチャ。ポキポキ。と、骨がぶつかったり、指が鳴るような音がした。
「ちょっとウィル。
変な音出して私を脅かすつもり?」
「えっ、僕何もしてないケド」
「じゃあこれは何の……?
きゃあ!」
二人はお互いの手を握りしめ、少しでも力を分け合おうとする。
僕とニコは陰に隠れながら、音の出どころを調べた。
そこには、大勢の死骨族が武装して列をなしながら行進していた。
「がががが、骸骨?!」
「シーッ
バレちゃうよ
反対方向へ逃げよう」(ヒソ
ニコは首を縦に振った。
しかし……。
「ちょっと? 反対側にも……骸骨が……いる」(ヒソ
ヤバい。
囲まれたみたいだ。
この数を相手に……。
! 足音が聞こえてきた。
「ウィル! 大丈夫か?!」
あれ? ……父様だ。
父様が助けに来てくれたのか。
父様は、死骨族を引き寄せ、僕らから遠ざけた。
「先に行くんだ!
私は後で行く!」
父様は、魔術を利用し、敵をどんどん討ち果たしていった。
「私の部屋にこういう時のための隠し通路がある。
ミリア!!」
「うん、まかせて!」
父の後ろにいた母様が姿を現した。
「さあ、母さんの後ろに隠れながら、進むんですよ?!」
「……」
母様は僕の手を無理やり引きながら逃げ始めた。
父様へ謝罪をすることもできずに……。
道中、様々な魔物が襲ってきた。
緑鬼族や粘体族、喰人族などだ。
皆で束になりつつも立ち向かったり、逃げたりした。
そして、父様の部屋についた。
棚には、白髪の小さな子供が寝ている絵画がかけてあった。
髪が白い。ということは……。
「ウィル?
どうしたの?」
「この絵は……」
「これは、生まれたばかりにあなたを描いた絵ね。
あの人、あまり表に出さないけど、あなたのこと大好きなのよ。
あなたが、生まれる前は、あの人もっとおちゃらけた感じで、王様っていう感じじゃなかったけど、あなたが生まれたから、ちゃんとした王様になろうって頑張ってたのよ。
まぁ、空回りしていることも多かったけどね」
「……」
そうだったのか。
父様はずっと昔から、ああいう感じだと思っていた。
「ッ! 魔物!」
「ウィルー!!」
後ろには、この世のものとは思えないほど、まがまがしい雰囲気を纏った魔人がたっていた。
ライオンの特徴も混じっている。
その手には大剣を持っていた。
僕はそいつに、グンッと後ろへと引っ張られた。
「グハハハハ。間抜けだな。
このガキを殺されたくなかったら、動くんじゃねぇ。
少しでも動いてみれば、このブラック王国の将軍、ジャゴンズ様がこのガキの首を掻っ切ってやる」
「クッ! ウィル!」
「おい、そこの女!
さっき、俺様のことを魔物だといったなぁ。
俺は魔物ではない!
魔物より上の存在、『魔人』だ!」
首に剣を押し付けられる。
――怖い。
ちびっちゃいそう。
ジャゴンズは、僕のことを持ちつつ、母様やニコととの距離をじりじりと詰める。
ジャゴンズが、剣を振りかぶった。
そこへ……。
「くたばれ、くそ野郎!」
「私の家族に手を出すな」
「ショウ……ラセフ……」
我らがヒーロー、ショウと父様がやってきた。
ショウが剣を持っているからか気性が荒くなっている。
それにしても、僕らは何回ショウと父様に助けられているんだ!?
「ウィル、今助けてやる
水攻撃魔術『激浪』!」
「覚悟!」
「ぐわぁあ!」
ジャゴンズは、僕を離した。
あれ? 父様、詠唱していなくないか!?
威力も通常の魔術に比べて高くなっているし……。
「いってぇ
! ……なかなかやるな!
俺様も魔術を使ってやる。
風攻撃魔術『狂響』
ガゥヲオオ!」
地響きが鳴った。
ものすごい、風が部屋全体に吹き荒れる。
ガッシャンと窓ガラスが割れた。
「ウィル。大丈夫か?
このままだと、マズいな。
城が一部崩れ始めてしまう」
僕は、父様の言葉に耳を傾け、周りを見渡した。
確かに、ジャゴンズの魔術によって、城の一部が崩れ始めていた。
「このままでは、皆瓦礫につぶされてしまう。
私を置いて、先に行くんだ!」
ジャゴンズが今度は、詠唱を始めた。
「俺様も、本気を出してやるぜ。
風の精霊よ、魔の世界より力を授けろ!!
風攻撃魔術『狂響』
ガゥヲオオ!」
尋常ではないほどの、魔力がジャゴンズへと集まっていった。
そして、尋常ではないほどの魔術が僕たちを襲ったのである。
ジャゴンズを中心として、とてつもない風が吹き荒れる。
建物がみしみしと言っている。
――ドシャア。
天井が半壊し、瓦礫が、落ちた。
このままでは、皆ぺしゃんこになる……!
「お前たち!
生き残れよ!」
父様、いや、父はそういうと、魔力をありったけ、手に注ぎ衝撃はを放った。
僕とニコと母様は、衝撃波によって、部屋の中へと押し込まれた。
父《・》は言った!
「ウィルソン。たった一つ、俺からお前への最後の願いだ。
……幸せになれよ」
「託した」
と。
――グシャリと、何かがつぶれる音とともに、部屋の入口に瓦礫が積もり塞がれた。
そして、それが父と僕の最後の会話となった。
そうして、僕らは隠し通路を通り、城を抜け出したのであった。
★ ★ ★
…………………………………………………。
…………………………………………………。
…………………………………………………。
僕とニコと母。
たった三人になった。
ショウはもしかしたら、まだ生きているかもしれないが、今、僕たちは三人だ。
……父の犠牲を無駄にしてはいけない。
「! 追手が来てる」
ニコが声を上げた。
ふと、背後を見てみると魔物が追いかけてきている。
まるで、本物の馬のような見た目だが、馬と違う点があるとすればそれは首から上が存在していないことだろう。
一体どういう体の構造をしてるんだよ!?
しかも、こっちへと猛スピードで迫ってきている。
「しょうがないわね。
私がおとりになるわ」
「あなたたち!
木の陰に隠れてなさい!
雨だから見つかりっこないわ!」
「でも……」
「でもじゃない!
もう……仕方ないの。
あなたたちだけでも生き残って」
「!」
「じゃあ、私はいくわね」
僕達は木の陰へと隠れた。
そして、母の方向へと向かっていく。
人間が、仮にも馬の脚にかなうハズがないのに……。
「ウィル!
まだ追手が……
さっきの馬の魔族よりかは数は少ないけど」
……もうだめかもしれない。
★ ★ ★
僕らは、走った。全力で走った。
しかし、人間が魔物の身体能力に勝てるはずもなく、無数の追手に囲まれた。
後ろは断崖絶壁。
下には雨で増水している河が流れている。
(これが背水の陣か)
父様も母様もショウもいない。
今のままじゃ、死ぬ。確実に死ぬ。断言できる。
僕には魔物に打ち勝つ力はあるはずだ。
毎日を勉学と訓練に費やしてきた。
勝てないわけじゃないはずだ。
でも、『勇気』ただそれだけがない。
今だ。今この瞬間、勇気を振り絞り、ここでトラウマを克服しなければいけない。
そうじゃなきゃ、さっきのように、大事な人を失ってしまう。
変わるなら、今ここだ。
「ウォオオ!」
俺は雄たけびを上げつつ魔力を集め、後ろを振り返った。
「僕……いや、『俺』は君を守るため、戦うよ」
――その時、魔術の革新に一歩近づいた気がした。
「光攻撃魔術『閃光』」
僕の手から、まばゆい光とともに衝撃波が放たれた。
いつもの魔術の威力とは段違いだ。
魔物のうち、数十体が闇の粒子となって消えた。
「キャッ」
「えっ」
ニコのほうを見ると、雨で地盤が緩んだのか崖の一部が崩れていた。
そして、ニコが足を踏み外し、崖の下へ落ち始めていた。
僕はニコのほうへ手を伸ばしながら跡を追うように落た。
そうして、僕とニコは、暗闇の広がる、激流の河へ落ちていったのだった。
ニコの手をつかむことは……。
…………………………できなかった……。
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