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■第1章 幼年期
✦第4話「奴隷市場」
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✦第四話「奴隷市場」
「はぁ、疲れた」
静かな部屋で深いため息を吐き、そう呟いた。
今は本来、勉強時間なのだが、長時間の勉強に疲れてしまい、ため息をつきながら休憩していた。
(最近ずっと、同じことをしている気がする)
イスに座り足をブラブラさせながら、そんなことを考える。
ここ最近、勉強か剣術くらいしかできていない。
(魔術も練習してるけど、なかなかうまくいかないんだよなぁ。
やりたくもないことをやらされて……これじゃあ前世と同じじゃないか)
ちなみに、魔術については、魔人語《マシンご》を習ったかいあって、威力の高い光属性の魔術を使えるようになった。
どうやら、僕には光属性の魔術の適正があるようだ。
僕は、ピョンッと立ち上がり、窓から外を見下ろす。
外の景色は美しく、城下町の賑やかな様子も見受けられる。
「行ってみたいなぁ。
城以外の、広い世界を見てみたい。
新しい土地、新しい人々……」
今まで足を踏み入れたことのない世界。
目と鼻の先にありすぐに行ける距離。
ここで、一歩を踏み出さなかったら、後悔するんじゃないか?
そこで、僕は決断した。
外の世界に足を踏み入れることを……。
「明日、家出をしよう」
(バレないように、日が昇る前に実行しよう)
★ ★ ★
翌日、朝日が昇る前に城の壁を木を使って超えた。
荷物は軽く、必要最低限の食料とお金しか持っていない。
頭にはフードを深くかぶって、顔を隠している。
ちなみに硬貨は、いつの間にか部屋の隅にあった壺を割って、ゲットした。
僕は白金貨一枚と銀貨五枚をもっている。
人族の硬貨の種類は以下の通りだ。
白金貨=十万円
金貨=一万円
銀貨=千円
銅貨=百円
なぜ僕が〇〇円などと価値がわかったのかは気にしないでくれ。
しばらく歩いていると、背後から夕陽が昇ってきた。
そこでふと、城の人たちのことを考える。
「今頃、ショウ達は僕がいないことに気が付いて、慌てているころかな?」
城に振り返り、そんなことをつぶやいた。
僕は、寂しがっているのだろうか?
(まぁ、今更戻っても仕方がない)
前を向きなおし、歩きを進める。
(なんだか、期待で身体がウズウズしている)
「一体どんな所なんだろう?」
★ ★ ★
城下町に到着すると、活気のある露店が広がっていた。
人々は慌ただしく仕事に励んでいる。
僕は初めての城外に胸を膨らませた。
なんたって前世でだってこんな景色は一度も見たことがなかったのだから。
年相応の反応を見せた。
(わぁー、きれいだなぁ)
目をキラキラさせ、城下町の光景に驚きながらも、好奇心から人の声が多いほうへ歩みを進めた。
すると、露店の多い大きな広場に出た。
露店の声が賑やかに響く中、興味津々で広場を歩き回った。
「おい、坊主、こんな剣に興味はないか?」
「こっちには、今朝取れたての魚があるぞ!」
「子供にも似合うアクセサリーも」
商人が色々と品々を勧めてきた。
どれも、品質のよさそうな物ばかりだ。
流石城下町。僕の視線は様々な品物にくぎ付けになる。
その中でも、僕は色鮮やかな宝石が煌めくペンダントに目を奪われた。
ペンダントを打っている店へと入った。
カラフルなペンダントがたくさん並んでいる。
「あの、このペンダントはどんな意味があるんですか?」
「これは古くから伝わる冒険者たちの間で愛される幸運のお守りなんだ。
各宝石には異なる意味が込められているんだぜ。
殆どの宝石は金貨一枚だ」
商人は色とりどりな、ペンダントを自慢げに語った。
僕はその中にあった、黒色の宝石を手に取ってみた。
僕はそれを手に取ると、なぜか親近感を覚えた。
「それは、おすすめはしないな。
珍しいけど、漆黒で目立たない宝石だから、客も好まないんだ」
品々の端で売れ残っている、誰の目にも触れない可哀そうなペンダント。
なにかが確信に迫った気がした。
「買った!!」
なぜだかはわからない。無意識だ。
でも、僕は気がついたころには、ペンダントを買っていた。
たったの、銀貨三枚。
それがペンダントの値段だった。
★ ★ ★
(ペンダントを買って、残金は――。
これから、何をしようか……)
まだお金は結構残っている。
……ご飯でも食べようかな。
「ん?」
視界の隅に違和感を感じて、振り返る。
そこには、この世界では未だ見たことのない、漆黒の髪と瞳をもった少女がいた。
そして、耳が長かった。耳長族……なのだろうか?
その少女は、ボロボロの服を身にまとい、まるで死んでいるかのような目をしていた。
腕は縄で縛られており、逃げられないよう拘束されている。
男が少女につながっている鎖を引っ張る。
(……奴隷、なのか?
この世界にも、奴隷がいることは知っていたが、意外とおおやけに認められているんだな
……)
「あっ」
奴隷の少女が転んだ。
隣の奴隷商人? の目が怒りの目に変わった。
少女を殴る。
何回も。何回も……。
僕は、心の底からふつふつと何かが湧いて出ていくのを感じた。
(――見てられない)
僕は怒る自分を制御できずに、奴隷商人に向かっていった。
ちなみに、無鉄砲で無計画だ。
武器すら、持っていない。
「おい、そこのガキ!
こっち見るんじゃねぇ!」
奴隷商人は、怒りの表情を見せながら、こちらへ話しかけてきた。
どうやら、奴隷が転んだことと、生意気なガキがにらみつけてくることにイライラしているのだろう。
「その子を離してください」
「うるさいぞチビ。
ここは子供んくるとこじゃねぇ!」
「はぁ!? チビじゃないし! 普通だし!!
これから、成長期だからこれから伸びるんです~」
「ところで、その子は?」
「? 奴隷だ」
「……いくらなんですか?」
「髪は黒いが、上玉の女なんでなぁ。
白金貨一枚が妥当だろう」
買える。
白金貨一枚はある。
「買います」
「はぁ!?
おめぇみたいなちんちくりんな子供がそんな金持ってるワケ――」
「あります!」
僕は白金貨を差し出した。
煌びやかに白色の光を纏っている。
「これは……まちがいねぇ。
白金貨だ。
……でもなんでこんな子供が?」
奴隷商人は、しばらく僕の身体を観察していた。
すると、ハッ、と何かに気づいたようだった。
僕はその状態に、嫌な予感と恐怖心を覚えた。
「そ、その奴隷を早く、わたしてください」
「そうかぁ、お前の服にある紋章、青いバラの紋章。
それは、この国の王家の証だぁ
いけないねぇ。いけないねぇ。
王子様が護衛も付けづに、こんなところをウロウロと。
こんなんじゃ、誘拐してくれって言っているようなものだぜ」
しまった。
僕が王子であることがバレてしまったようだ。
「おい! ガーラ団! テメェ―らの狙ってる獲物だぞ!
協力しろ!」
「見つけたでヤンス ……でも王子がなんでこんなところに?」
「そんなーこと、なんでーも、いーいジャマイカ」
「「お命頂戴する」」
しかも、仲間を呼ばれてしまった。仮面を被っている。
ガーラ団? 確か反乱勢力だっけ?
なんでこんなところに
僕は奴隷の手を引いて逃げた。
しかし、逆に路地裏に追い詰められてしまった。
「おい、王子様よぉ
首ちょん切られたくなかったら、おとなしくついてくるんだなぁ」
男たちが、剣を抜き、僕へとその剣筋を向ける。
中には剣の先をなめるようなポーズをしている人もいる。
僕は男たちの殺気にうろたえ、足がブルブルと震えている。
僕は『光玉』を使う。
「うおっ
…やりやがったな?」
「ヒィッ!」
男たちに目くらまし。
どうやら、少しは効いている。
(大丈夫。大丈夫。
今まで、何のために、剣と魔法を学んできたんだ。
これくらいの敵、朝飯前に倒せるはず……」
経験値で言えば、圧倒的に僕のほうが有利なはずだ。
この世界の住人は魔術はおろか、学がない。
王子として、日々を研鑽に費やしてきたのだから、勝てないはずがない。
たとえ、僕が五歳だったとしても、だ。
――でも体が動かない。
奴隷の時のトラウマは、いまだ残っている。
呪いのように。
それも、ねばねばとまとわりついてくる。
頭ではわかっていても、体が動かない。動かせない。
トラウマとはそういうものだ。
「ちょっと痛い目見てもらうぜ」
そういうと、男たちは僕を囲んで、剣を向けた。
剣を振りかぶる。
……しかし僕は何もできなかった。
――ガキン!
剣同士がぶつかり合ったのか、不気味な金属音があたりに響いた。
「ウィル!!
大丈夫か?!」
見るとそこには、赤髪をたなびかせた、一人の少女がたっていた。
気が付くと同時に、奴隷商人のうちの一人の腕が飛んだ。
それでガーラ団の一人が慌てて、火弾を放った。
ショウはそれを軽くいなしつつ、ライオンのように相手をにらみつけた。
一度剣を鞘に納める。
「そこの人たちは一体誰の町で暴れまわっていると思うのでしょう?
ここは、ラセフ様が支配する町です
一度だけ、チャンスを上げます。
今すぐここを出ていきなさい」
「ラセフ様だと?
あんないなくてもいても変わらねぇような王様なんぞいらねぇぜ」
「そうでヤンス
僕たちにとっての王はガーラ団のキーガ様だけでヤンス」
「そうですか」
でも、この数相手に、女一人では……。
奴隷商人たちも僕と同じことを思ったのか『あ? なんだ? 護衛役か?』とか『女一人とか余裕だわぁ』などとこぼしている。
「私には許せないことが二つあります。
一つ目は、私のいうことを聞かないこと。
二つ目は、ラセフ様を馬鹿にすることです。
あなた方は、その両方を破りました。
ですので、一切手加減する気はありません」
ショウの顔には血管が浮かんでおり、激おこぷんぷん丸だ。
ショウは男たちにひるまず、向かっていった。
そして、容赦なく自慢の剣で切り裂いていく。
しばらく、ショウによる奴隷商人の蹂躙が続いた。
「イー…・ガ…ラ 様に伝えなくては
ナ…様」
……そこら中が血一色に染まっている。
男たちは、ザックザックと斬られ、しばらくピクピク痙攣した後、全く動かなくなっていた。
――死んだのだ。
まだ死に切れてないやつもいる。
僕はただ、目の前の光景に唖然とした。
この世界での命の軽さを目の当たりにして、怖くなった。そこら中に漂っている血なまぐさいにおいがその惨状を物語っていた。
そして、自分がそうなる未来を想像してしまった。
今更気づいた。
いたずらに人は死ぬとい事実を。
僕は奴隷時代から何も成長していないことを……。
その二つの板挟みになり、胃が締め付けられる。
吐きそうだ。
(さっきまで、生きていたのに……)
ふと、奴隷の少女の顔を覗き込む。
無気力で何に対しても無関心。
そんな顔をしていた。
「ウィル、大丈夫か?
ラセフ様やミリア様が心配していたぞ?!
……そこの嬢さんは誰だ?」
「暴力を振るわれていて、助けようとしたんだ。
でも……」
「何もできなかったと」
僕はうつむいた。
ショウは、剣にこびりついた血を布で丁寧に落とし、剣を鞘にしまった。
ショウは、僕と奴隷の少女を交互に見ると、微笑みしゃべりだした。
「まぁ、ウィル様が無事だったので良かったです!」
その表情は、どこかわざとらしく明るく振舞っているように見える。
「そのお嬢さんは、お城で保護しましょうか」
奴隷の少女の目はうつろなままだ。
耳もシュンと垂れ下がっている。
ショウの言葉に何の反応も示さない。
僕は先ほど買った、黒色のペンダントを少女に渡そうとした。
しかし、届かなかった。
「ちょ、ちょっとかがんでくれる?」
(今のはちょっと、カッコ悪かったかな?)
そうして、黒色のペンダントを渡した。
少女の瞳にはわずかに、生気がわいたように見えた。
「君も、僕達の家に帰ろう
僕の名前はウィルソン。
ウィルソン・ライト」
「君の名前は何て言うんだ?」
「? ……私は二二番……」
(この世界でも、奴隷は番号で区別されるのか……。
名前はどうしようか)
「うーん名前はどうしよう」
考えても何も浮かばないので、僕はショウへ質問を投げかける。
「ショウ、何か名前のアイディアはありますか?」
「アイディアですか? う~ん、そうですね。それじゃあニコなんて名前はどうでしょうか」
「いい名前ですね。じゃあそうしましょう」
「お前の名前は、今日からニコだ」
「……ニコ?」
少女は最初キョトンとした顔をしていた。
「ニコ」
しかし、自分に新しい名前が付けられたことに気が付くと、少し表情が緩んだ気がした。
なぜなら、自分の名前を反芻しながら、不思議そうな顔をしていたからだ。
しかし、少女の身体はどこか震えているようにも見えた。
この日、とても短い家出をした僕は、奴隷の少女、もといニコを助けたのであった。
お城に帰ったら、メイドや父様たちに、僕が半泣きになるまで、説教されたのは言うまでもない。
★ ★ ★
父様との会話。
「私が教えた、その力を使って、皆を守ってあげるんだ」
僕はこう返した。
「グスッ!
うん。安心して?
父さん。
僕が強くなってニコもショウも、全部守るよ」
「はぁ、疲れた」
静かな部屋で深いため息を吐き、そう呟いた。
今は本来、勉強時間なのだが、長時間の勉強に疲れてしまい、ため息をつきながら休憩していた。
(最近ずっと、同じことをしている気がする)
イスに座り足をブラブラさせながら、そんなことを考える。
ここ最近、勉強か剣術くらいしかできていない。
(魔術も練習してるけど、なかなかうまくいかないんだよなぁ。
やりたくもないことをやらされて……これじゃあ前世と同じじゃないか)
ちなみに、魔術については、魔人語《マシンご》を習ったかいあって、威力の高い光属性の魔術を使えるようになった。
どうやら、僕には光属性の魔術の適正があるようだ。
僕は、ピョンッと立ち上がり、窓から外を見下ろす。
外の景色は美しく、城下町の賑やかな様子も見受けられる。
「行ってみたいなぁ。
城以外の、広い世界を見てみたい。
新しい土地、新しい人々……」
今まで足を踏み入れたことのない世界。
目と鼻の先にありすぐに行ける距離。
ここで、一歩を踏み出さなかったら、後悔するんじゃないか?
そこで、僕は決断した。
外の世界に足を踏み入れることを……。
「明日、家出をしよう」
(バレないように、日が昇る前に実行しよう)
★ ★ ★
翌日、朝日が昇る前に城の壁を木を使って超えた。
荷物は軽く、必要最低限の食料とお金しか持っていない。
頭にはフードを深くかぶって、顔を隠している。
ちなみに硬貨は、いつの間にか部屋の隅にあった壺を割って、ゲットした。
僕は白金貨一枚と銀貨五枚をもっている。
人族の硬貨の種類は以下の通りだ。
白金貨=十万円
金貨=一万円
銀貨=千円
銅貨=百円
なぜ僕が〇〇円などと価値がわかったのかは気にしないでくれ。
しばらく歩いていると、背後から夕陽が昇ってきた。
そこでふと、城の人たちのことを考える。
「今頃、ショウ達は僕がいないことに気が付いて、慌てているころかな?」
城に振り返り、そんなことをつぶやいた。
僕は、寂しがっているのだろうか?
(まぁ、今更戻っても仕方がない)
前を向きなおし、歩きを進める。
(なんだか、期待で身体がウズウズしている)
「一体どんな所なんだろう?」
★ ★ ★
城下町に到着すると、活気のある露店が広がっていた。
人々は慌ただしく仕事に励んでいる。
僕は初めての城外に胸を膨らませた。
なんたって前世でだってこんな景色は一度も見たことがなかったのだから。
年相応の反応を見せた。
(わぁー、きれいだなぁ)
目をキラキラさせ、城下町の光景に驚きながらも、好奇心から人の声が多いほうへ歩みを進めた。
すると、露店の多い大きな広場に出た。
露店の声が賑やかに響く中、興味津々で広場を歩き回った。
「おい、坊主、こんな剣に興味はないか?」
「こっちには、今朝取れたての魚があるぞ!」
「子供にも似合うアクセサリーも」
商人が色々と品々を勧めてきた。
どれも、品質のよさそうな物ばかりだ。
流石城下町。僕の視線は様々な品物にくぎ付けになる。
その中でも、僕は色鮮やかな宝石が煌めくペンダントに目を奪われた。
ペンダントを打っている店へと入った。
カラフルなペンダントがたくさん並んでいる。
「あの、このペンダントはどんな意味があるんですか?」
「これは古くから伝わる冒険者たちの間で愛される幸運のお守りなんだ。
各宝石には異なる意味が込められているんだぜ。
殆どの宝石は金貨一枚だ」
商人は色とりどりな、ペンダントを自慢げに語った。
僕はその中にあった、黒色の宝石を手に取ってみた。
僕はそれを手に取ると、なぜか親近感を覚えた。
「それは、おすすめはしないな。
珍しいけど、漆黒で目立たない宝石だから、客も好まないんだ」
品々の端で売れ残っている、誰の目にも触れない可哀そうなペンダント。
なにかが確信に迫った気がした。
「買った!!」
なぜだかはわからない。無意識だ。
でも、僕は気がついたころには、ペンダントを買っていた。
たったの、銀貨三枚。
それがペンダントの値段だった。
★ ★ ★
(ペンダントを買って、残金は――。
これから、何をしようか……)
まだお金は結構残っている。
……ご飯でも食べようかな。
「ん?」
視界の隅に違和感を感じて、振り返る。
そこには、この世界では未だ見たことのない、漆黒の髪と瞳をもった少女がいた。
そして、耳が長かった。耳長族……なのだろうか?
その少女は、ボロボロの服を身にまとい、まるで死んでいるかのような目をしていた。
腕は縄で縛られており、逃げられないよう拘束されている。
男が少女につながっている鎖を引っ張る。
(……奴隷、なのか?
この世界にも、奴隷がいることは知っていたが、意外とおおやけに認められているんだな
……)
「あっ」
奴隷の少女が転んだ。
隣の奴隷商人? の目が怒りの目に変わった。
少女を殴る。
何回も。何回も……。
僕は、心の底からふつふつと何かが湧いて出ていくのを感じた。
(――見てられない)
僕は怒る自分を制御できずに、奴隷商人に向かっていった。
ちなみに、無鉄砲で無計画だ。
武器すら、持っていない。
「おい、そこのガキ!
こっち見るんじゃねぇ!」
奴隷商人は、怒りの表情を見せながら、こちらへ話しかけてきた。
どうやら、奴隷が転んだことと、生意気なガキがにらみつけてくることにイライラしているのだろう。
「その子を離してください」
「うるさいぞチビ。
ここは子供んくるとこじゃねぇ!」
「はぁ!? チビじゃないし! 普通だし!!
これから、成長期だからこれから伸びるんです~」
「ところで、その子は?」
「? 奴隷だ」
「……いくらなんですか?」
「髪は黒いが、上玉の女なんでなぁ。
白金貨一枚が妥当だろう」
買える。
白金貨一枚はある。
「買います」
「はぁ!?
おめぇみたいなちんちくりんな子供がそんな金持ってるワケ――」
「あります!」
僕は白金貨を差し出した。
煌びやかに白色の光を纏っている。
「これは……まちがいねぇ。
白金貨だ。
……でもなんでこんな子供が?」
奴隷商人は、しばらく僕の身体を観察していた。
すると、ハッ、と何かに気づいたようだった。
僕はその状態に、嫌な予感と恐怖心を覚えた。
「そ、その奴隷を早く、わたしてください」
「そうかぁ、お前の服にある紋章、青いバラの紋章。
それは、この国の王家の証だぁ
いけないねぇ。いけないねぇ。
王子様が護衛も付けづに、こんなところをウロウロと。
こんなんじゃ、誘拐してくれって言っているようなものだぜ」
しまった。
僕が王子であることがバレてしまったようだ。
「おい! ガーラ団! テメェ―らの狙ってる獲物だぞ!
協力しろ!」
「見つけたでヤンス ……でも王子がなんでこんなところに?」
「そんなーこと、なんでーも、いーいジャマイカ」
「「お命頂戴する」」
しかも、仲間を呼ばれてしまった。仮面を被っている。
ガーラ団? 確か反乱勢力だっけ?
なんでこんなところに
僕は奴隷の手を引いて逃げた。
しかし、逆に路地裏に追い詰められてしまった。
「おい、王子様よぉ
首ちょん切られたくなかったら、おとなしくついてくるんだなぁ」
男たちが、剣を抜き、僕へとその剣筋を向ける。
中には剣の先をなめるようなポーズをしている人もいる。
僕は男たちの殺気にうろたえ、足がブルブルと震えている。
僕は『光玉』を使う。
「うおっ
…やりやがったな?」
「ヒィッ!」
男たちに目くらまし。
どうやら、少しは効いている。
(大丈夫。大丈夫。
今まで、何のために、剣と魔法を学んできたんだ。
これくらいの敵、朝飯前に倒せるはず……」
経験値で言えば、圧倒的に僕のほうが有利なはずだ。
この世界の住人は魔術はおろか、学がない。
王子として、日々を研鑽に費やしてきたのだから、勝てないはずがない。
たとえ、僕が五歳だったとしても、だ。
――でも体が動かない。
奴隷の時のトラウマは、いまだ残っている。
呪いのように。
それも、ねばねばとまとわりついてくる。
頭ではわかっていても、体が動かない。動かせない。
トラウマとはそういうものだ。
「ちょっと痛い目見てもらうぜ」
そういうと、男たちは僕を囲んで、剣を向けた。
剣を振りかぶる。
……しかし僕は何もできなかった。
――ガキン!
剣同士がぶつかり合ったのか、不気味な金属音があたりに響いた。
「ウィル!!
大丈夫か?!」
見るとそこには、赤髪をたなびかせた、一人の少女がたっていた。
気が付くと同時に、奴隷商人のうちの一人の腕が飛んだ。
それでガーラ団の一人が慌てて、火弾を放った。
ショウはそれを軽くいなしつつ、ライオンのように相手をにらみつけた。
一度剣を鞘に納める。
「そこの人たちは一体誰の町で暴れまわっていると思うのでしょう?
ここは、ラセフ様が支配する町です
一度だけ、チャンスを上げます。
今すぐここを出ていきなさい」
「ラセフ様だと?
あんないなくてもいても変わらねぇような王様なんぞいらねぇぜ」
「そうでヤンス
僕たちにとっての王はガーラ団のキーガ様だけでヤンス」
「そうですか」
でも、この数相手に、女一人では……。
奴隷商人たちも僕と同じことを思ったのか『あ? なんだ? 護衛役か?』とか『女一人とか余裕だわぁ』などとこぼしている。
「私には許せないことが二つあります。
一つ目は、私のいうことを聞かないこと。
二つ目は、ラセフ様を馬鹿にすることです。
あなた方は、その両方を破りました。
ですので、一切手加減する気はありません」
ショウの顔には血管が浮かんでおり、激おこぷんぷん丸だ。
ショウは男たちにひるまず、向かっていった。
そして、容赦なく自慢の剣で切り裂いていく。
しばらく、ショウによる奴隷商人の蹂躙が続いた。
「イー…・ガ…ラ 様に伝えなくては
ナ…様」
……そこら中が血一色に染まっている。
男たちは、ザックザックと斬られ、しばらくピクピク痙攣した後、全く動かなくなっていた。
――死んだのだ。
まだ死に切れてないやつもいる。
僕はただ、目の前の光景に唖然とした。
この世界での命の軽さを目の当たりにして、怖くなった。そこら中に漂っている血なまぐさいにおいがその惨状を物語っていた。
そして、自分がそうなる未来を想像してしまった。
今更気づいた。
いたずらに人は死ぬとい事実を。
僕は奴隷時代から何も成長していないことを……。
その二つの板挟みになり、胃が締め付けられる。
吐きそうだ。
(さっきまで、生きていたのに……)
ふと、奴隷の少女の顔を覗き込む。
無気力で何に対しても無関心。
そんな顔をしていた。
「ウィル、大丈夫か?
ラセフ様やミリア様が心配していたぞ?!
……そこの嬢さんは誰だ?」
「暴力を振るわれていて、助けようとしたんだ。
でも……」
「何もできなかったと」
僕はうつむいた。
ショウは、剣にこびりついた血を布で丁寧に落とし、剣を鞘にしまった。
ショウは、僕と奴隷の少女を交互に見ると、微笑みしゃべりだした。
「まぁ、ウィル様が無事だったので良かったです!」
その表情は、どこかわざとらしく明るく振舞っているように見える。
「そのお嬢さんは、お城で保護しましょうか」
奴隷の少女の目はうつろなままだ。
耳もシュンと垂れ下がっている。
ショウの言葉に何の反応も示さない。
僕は先ほど買った、黒色のペンダントを少女に渡そうとした。
しかし、届かなかった。
「ちょ、ちょっとかがんでくれる?」
(今のはちょっと、カッコ悪かったかな?)
そうして、黒色のペンダントを渡した。
少女の瞳にはわずかに、生気がわいたように見えた。
「君も、僕達の家に帰ろう
僕の名前はウィルソン。
ウィルソン・ライト」
「君の名前は何て言うんだ?」
「? ……私は二二番……」
(この世界でも、奴隷は番号で区別されるのか……。
名前はどうしようか)
「うーん名前はどうしよう」
考えても何も浮かばないので、僕はショウへ質問を投げかける。
「ショウ、何か名前のアイディアはありますか?」
「アイディアですか? う~ん、そうですね。それじゃあニコなんて名前はどうでしょうか」
「いい名前ですね。じゃあそうしましょう」
「お前の名前は、今日からニコだ」
「……ニコ?」
少女は最初キョトンとした顔をしていた。
「ニコ」
しかし、自分に新しい名前が付けられたことに気が付くと、少し表情が緩んだ気がした。
なぜなら、自分の名前を反芻しながら、不思議そうな顔をしていたからだ。
しかし、少女の身体はどこか震えているようにも見えた。
この日、とても短い家出をした僕は、奴隷の少女、もといニコを助けたのであった。
お城に帰ったら、メイドや父様たちに、僕が半泣きになるまで、説教されたのは言うまでもない。
★ ★ ★
父様との会話。
「私が教えた、その力を使って、皆を守ってあげるんだ」
僕はこう返した。
「グスッ!
うん。安心して?
父さん。
僕が強くなってニコもショウも、全部守るよ」
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サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
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クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
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何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって? そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが!!
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死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
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