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ある日、千尋がいつものように勉強をしていると、由美が一人でやってきた。
「こんにちは、真島さん」
「こ、こんにちは」
颯人と二人で来ることはあっても、由美が一人で訪ねてきたのは今回が初めてだ。
颯人への想いを自覚したと同時に失恋も経験した千尋は、想い人の恋人にどう接していいか、わからなかった。
「座っていい?」
「も、もちろんです! どうぞ」
由美はベッドの下から丸椅子を引っ張り出して、鞄を膝の上に置くようにして座る。
「突然来ちゃって、ごめんね」
「いえ。その、今日は、どうしたんんですか? いつも颯人君と一緒なのに……」
千尋は笑み見せるも戸惑いが隠せていない顔を、由美に向ける。
由美は千尋の困惑した様子に苦笑しながら、鞄のチャックを開けた。
「実は真島さんに、渡したいものがあってね。九条君と一緒に来ても良かったんだけど、彼、部活で行けるかわからないって言うから。それで一人で来たのよ」
「そう、でしたか。それで渡したいものって?」
「これよ」
由美は鞄の中から、教科ごとにわけられたノートを取り出すと、千尋に差し出した。
「これね、わたしが一年生の時にテスト対策で作ったまとめノートなの。真島さんは九条君ので、勉強しているんでしょう? だから余計なお世話かもしれないけど、真島さんはたくさんの色を使って、重要度の区別をしてるみたいだからさ。わたしもあなたみたいに、たくさん色を使う派だから、ちょっとは参考になるかなって思って」
「見ても、良いですか?」
「えぇ」
千尋はそれらを受け取り、上に乗っていた現代社会のノートを、パラパラとめくる。
颯人のノートは青と赤のペンでまとめられているが、由美のものは本人が言ったように、たくさんの色が使われていた。
「一応、わたしの中で、独自のルールがあるんだ。説明すればわかってくれるんだけど、やっぱり人によっては、ちょっと見にくいらしくて」
「そう、ですか? でも、オレンジは人の名前で、ピンクは法とかの名前。社会現象は水色で、赤は先生が言った大事なポイント、なのでしょう?」
由美は目を瞬かせた。
「すごい! 説明なしでわかってくれたの、真島さんが初めて。九条君はいつもわかりにくいって言うの。色は赤と青だけで十分だろーって」
「私からしたら、松岡さんのノートのほうが、わかりやすいです」
千尋の称賛に、由美は嬉しそうに笑う。
「颯人君のも悪くはないんですが、ちょっと簡略しすぎっていうか」
「あー。それは他の人にも言われてるわ。彼、頭いいからみんながノートを見せてくれって頼むんだけど、自分がわかればいいや主義だから、文句を言われてることもあるの」
「理不尽ですね」
千尋はクラスメイトの苦言を受けて、怒る颯人の様子を思い浮かべて、思わず笑った。
強ばりの解けた彼女の顔に、由美はわからないようにホッと息をついた。
「ノート、よければ使ってね」
「はい。ありがとうございます! あの……」
「なに?」
千尋は言いづらそうに、視線をさ迷わせる。
由美は急かすことなく、彼女が口を開くのを待った。
「実は、ここの問題が、わからなかくて……。その、松岡さんの、お時間があれば……」
「いいよ。教えてあげる!」
由美の答えに、千尋はパッと花が咲いたような笑みを見せる。
(九条君がやけに気にかける理由、わかったかも。こんなかわいい顔をされたら、ほっとけないわね)
「あの、ここのところなんですけど」
「あぁ。これはね――」
千尋の示した問題を、由美は丁寧に解説を始めた。
颯人はどの教科も、とにかく暗記をして答えを出すタイプだが、由美は何事も理論的に考えて答えを導き出すやり方だった。
それぞれ教え方が異なるものの、千尋にとっては二人とも良い教師役といえた。
「こんにちは、真島さん」
「こ、こんにちは」
颯人と二人で来ることはあっても、由美が一人で訪ねてきたのは今回が初めてだ。
颯人への想いを自覚したと同時に失恋も経験した千尋は、想い人の恋人にどう接していいか、わからなかった。
「座っていい?」
「も、もちろんです! どうぞ」
由美はベッドの下から丸椅子を引っ張り出して、鞄を膝の上に置くようにして座る。
「突然来ちゃって、ごめんね」
「いえ。その、今日は、どうしたんんですか? いつも颯人君と一緒なのに……」
千尋は笑み見せるも戸惑いが隠せていない顔を、由美に向ける。
由美は千尋の困惑した様子に苦笑しながら、鞄のチャックを開けた。
「実は真島さんに、渡したいものがあってね。九条君と一緒に来ても良かったんだけど、彼、部活で行けるかわからないって言うから。それで一人で来たのよ」
「そう、でしたか。それで渡したいものって?」
「これよ」
由美は鞄の中から、教科ごとにわけられたノートを取り出すと、千尋に差し出した。
「これね、わたしが一年生の時にテスト対策で作ったまとめノートなの。真島さんは九条君ので、勉強しているんでしょう? だから余計なお世話かもしれないけど、真島さんはたくさんの色を使って、重要度の区別をしてるみたいだからさ。わたしもあなたみたいに、たくさん色を使う派だから、ちょっとは参考になるかなって思って」
「見ても、良いですか?」
「えぇ」
千尋はそれらを受け取り、上に乗っていた現代社会のノートを、パラパラとめくる。
颯人のノートは青と赤のペンでまとめられているが、由美のものは本人が言ったように、たくさんの色が使われていた。
「一応、わたしの中で、独自のルールがあるんだ。説明すればわかってくれるんだけど、やっぱり人によっては、ちょっと見にくいらしくて」
「そう、ですか? でも、オレンジは人の名前で、ピンクは法とかの名前。社会現象は水色で、赤は先生が言った大事なポイント、なのでしょう?」
由美は目を瞬かせた。
「すごい! 説明なしでわかってくれたの、真島さんが初めて。九条君はいつもわかりにくいって言うの。色は赤と青だけで十分だろーって」
「私からしたら、松岡さんのノートのほうが、わかりやすいです」
千尋の称賛に、由美は嬉しそうに笑う。
「颯人君のも悪くはないんですが、ちょっと簡略しすぎっていうか」
「あー。それは他の人にも言われてるわ。彼、頭いいからみんながノートを見せてくれって頼むんだけど、自分がわかればいいや主義だから、文句を言われてることもあるの」
「理不尽ですね」
千尋はクラスメイトの苦言を受けて、怒る颯人の様子を思い浮かべて、思わず笑った。
強ばりの解けた彼女の顔に、由美はわからないようにホッと息をついた。
「ノート、よければ使ってね」
「はい。ありがとうございます! あの……」
「なに?」
千尋は言いづらそうに、視線をさ迷わせる。
由美は急かすことなく、彼女が口を開くのを待った。
「実は、ここの問題が、わからなかくて……。その、松岡さんの、お時間があれば……」
「いいよ。教えてあげる!」
由美の答えに、千尋はパッと花が咲いたような笑みを見せる。
(九条君がやけに気にかける理由、わかったかも。こんなかわいい顔をされたら、ほっとけないわね)
「あの、ここのところなんですけど」
「あぁ。これはね――」
千尋の示した問題を、由美は丁寧に解説を始めた。
颯人はどの教科も、とにかく暗記をして答えを出すタイプだが、由美は何事も理論的に考えて答えを導き出すやり方だった。
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