19 / 25
8ー2
しおりを挟む
僧侶は部屋の調度品を倒しながら、壁に激突してうめいた。
対して比奈は状況が理解できず、涙で濡れる目を瞬かせる。
「比奈!」
「れい、めい、さま?」
比奈を助けたのは、黎明だった。彼は彼女の乱れた着物を見て、全身に怒気をまとわせる。しかし、すぐに比奈を抱き起こし、自分の羽織を脱いで、乱れた部分を覆うようにかけた。
「う、うぅぅぅ」
「部屋の中では分が悪いな。外に出るぞ」
黎明は比奈を抱き上げて、庭に出る。そして草陰にそっと、彼女を下ろした。
「ごめんな。やっぱり、夜は来るべきだった。そうすれば、比奈に怖い思いをさせずにすんだ。遅くなって、ごめん」
黎明は悲痛な顔で、比奈の涙をぬぐう。だが比奈は呆然と、彼の頭を見ていた。
「比奈?」
あまりにも比奈の視線が微動だにしないので、黎明は彼女の視線を追うように、頭に手をやる。すると、鬼の角に触れた。
「あ、やべ。今日は薬、飲んでなかった」
そこでようやく、黎明は鬼の姿であることを、思い出した。
「おのれぇぇ。その娘は、わたしの獲物だぞぉぉ」
「ヒッ」
部屋の中から僧侶の不気味が声が響き、比奈は思わず黎明にしがみついた。
黎明は彼女を抱きしめながら、敵を睨みつける。彼の怒りに呼応するかのように、金色の瞳がきらりと輝く。
「よごぜぇ。ぞのむずめを、よごぜえぇぇ!!」
「化けの皮が剥がれたか」
僧侶の肌は赤黒く染まり、口が耳元まで大きく裂けていた。身体も一回り以上、大きくなり、獣のような雄叫びをあげる。
「れ、黎明様っ」
「大丈夫だ、比奈」
怯える比奈を、黎明は抱きしめる腕に力をこめ、そっと彼女の頬に手を添える。
「おまえのことは、俺が絶対に守るから。ヤツにはもう指一本、触れさせねぇし、近づけさせもしねぇ。だから俺を信じて、ここにいてくれ」
黎明の強い意思を感じ、比奈は彼の手に触れて、こくりと頷く。
「……信じております。黎明様ならば、絶対に大丈夫だと」
比奈から信頼を寄せた瞳を向けられ、場違いと思いながらも、黎明は頬を赤く染めた。
(可愛い……。いやいやいや。俺はこんな時に、なにを考えてんだ!)
ごほんっと咳払いをして、気持ちを切り替えて頷く。
黎明は比奈のそっと放し、敵と対峙する。
「童子切、手を貸してくれよ」
黎明がそう言って、刀を抜いた。すると童子切は主人の思いに答えるよう、鈍色に光る。
「があぁぁぁぁ!!」
僧侶であった化物は叫びながら、鋭い爪で黎明を切り裂こうと、飛びかかる。
「鬼である俺と真っ向から殺り合って、勝てると思ってんのか? 格が知れる」
黎明はそう呟くと、一気に距離を詰める。
敵の爪を弾き、がら空きになった腹に拳を叩き込む。
「ぐがあぁぁ!」
僧侶は悲鳴を上げて吹っ飛ぶが、空中で体勢を立て直し、四つん這いで地面に着地。
「ふん。正面からぶつかってくるだけはあるな。咄嗟の判断力は良し」
黎明は敵の動きに、称賛を送る。彼の口許は、戦いが楽しいというように、口角が上がっていた。
「がああぁぁぁ!!」
再び化物は黎明に飛び掛かる。
「だが、動きが単調過ぎる。そんなんじゃ、俺に触れることすら叶わねぇよ」
黎明の視界の隅に、比奈が祈るように手を組んでいるのが見えた。
(比奈のためにも、とっとと片付けるか)
黎明は腰を落とし、重心を下げ、得意の抜刀の構えを取る。
「これでしまいだ!」
黎明と敵が交差した。
どさっ
音を立てて地面に倒れたのは、化物のほうだった。
「所詮はこの程度か。たわいのない」
黎明は左手に鬼火を灯すと、死体に向けて投げた。死体は瞬く間に、灰すら残さず焼き尽くされる。
対して比奈は状況が理解できず、涙で濡れる目を瞬かせる。
「比奈!」
「れい、めい、さま?」
比奈を助けたのは、黎明だった。彼は彼女の乱れた着物を見て、全身に怒気をまとわせる。しかし、すぐに比奈を抱き起こし、自分の羽織を脱いで、乱れた部分を覆うようにかけた。
「う、うぅぅぅ」
「部屋の中では分が悪いな。外に出るぞ」
黎明は比奈を抱き上げて、庭に出る。そして草陰にそっと、彼女を下ろした。
「ごめんな。やっぱり、夜は来るべきだった。そうすれば、比奈に怖い思いをさせずにすんだ。遅くなって、ごめん」
黎明は悲痛な顔で、比奈の涙をぬぐう。だが比奈は呆然と、彼の頭を見ていた。
「比奈?」
あまりにも比奈の視線が微動だにしないので、黎明は彼女の視線を追うように、頭に手をやる。すると、鬼の角に触れた。
「あ、やべ。今日は薬、飲んでなかった」
そこでようやく、黎明は鬼の姿であることを、思い出した。
「おのれぇぇ。その娘は、わたしの獲物だぞぉぉ」
「ヒッ」
部屋の中から僧侶の不気味が声が響き、比奈は思わず黎明にしがみついた。
黎明は彼女を抱きしめながら、敵を睨みつける。彼の怒りに呼応するかのように、金色の瞳がきらりと輝く。
「よごぜぇ。ぞのむずめを、よごぜえぇぇ!!」
「化けの皮が剥がれたか」
僧侶の肌は赤黒く染まり、口が耳元まで大きく裂けていた。身体も一回り以上、大きくなり、獣のような雄叫びをあげる。
「れ、黎明様っ」
「大丈夫だ、比奈」
怯える比奈を、黎明は抱きしめる腕に力をこめ、そっと彼女の頬に手を添える。
「おまえのことは、俺が絶対に守るから。ヤツにはもう指一本、触れさせねぇし、近づけさせもしねぇ。だから俺を信じて、ここにいてくれ」
黎明の強い意思を感じ、比奈は彼の手に触れて、こくりと頷く。
「……信じております。黎明様ならば、絶対に大丈夫だと」
比奈から信頼を寄せた瞳を向けられ、場違いと思いながらも、黎明は頬を赤く染めた。
(可愛い……。いやいやいや。俺はこんな時に、なにを考えてんだ!)
ごほんっと咳払いをして、気持ちを切り替えて頷く。
黎明は比奈のそっと放し、敵と対峙する。
「童子切、手を貸してくれよ」
黎明がそう言って、刀を抜いた。すると童子切は主人の思いに答えるよう、鈍色に光る。
「があぁぁぁぁ!!」
僧侶であった化物は叫びながら、鋭い爪で黎明を切り裂こうと、飛びかかる。
「鬼である俺と真っ向から殺り合って、勝てると思ってんのか? 格が知れる」
黎明はそう呟くと、一気に距離を詰める。
敵の爪を弾き、がら空きになった腹に拳を叩き込む。
「ぐがあぁぁ!」
僧侶は悲鳴を上げて吹っ飛ぶが、空中で体勢を立て直し、四つん這いで地面に着地。
「ふん。正面からぶつかってくるだけはあるな。咄嗟の判断力は良し」
黎明は敵の動きに、称賛を送る。彼の口許は、戦いが楽しいというように、口角が上がっていた。
「がああぁぁぁ!!」
再び化物は黎明に飛び掛かる。
「だが、動きが単調過ぎる。そんなんじゃ、俺に触れることすら叶わねぇよ」
黎明の視界の隅に、比奈が祈るように手を組んでいるのが見えた。
(比奈のためにも、とっとと片付けるか)
黎明は腰を落とし、重心を下げ、得意の抜刀の構えを取る。
「これでしまいだ!」
黎明と敵が交差した。
どさっ
音を立てて地面に倒れたのは、化物のほうだった。
「所詮はこの程度か。たわいのない」
黎明は左手に鬼火を灯すと、死体に向けて投げた。死体は瞬く間に、灰すら残さず焼き尽くされる。
0
あなたにおすすめの小説
花嫁御寮 ―江戸の妻たちの陰影― :【第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞】
naomikoryo
歴史・時代
名家に嫁いだ若き妻が、夫の失踪をきっかけに、江戸の奥向きに潜む権力、謀略、女たちの思惑に巻き込まれてゆく――。
舞台は江戸中期。表には見えぬ女の戦(いくさ)が、美しく、そして静かに燃え広がる。
結城澪は、武家の「御寮人様」として嫁いだ先で、愛と誇りのはざまで揺れることになる。
失踪した夫・宗真が追っていたのは、幕府中枢を揺るがす不正金の記録。
やがて、志を同じくする同心・坂東伊織、かつて宗真の婚約者だった篠原志乃らとの交錯の中で、澪は“妻”から“女”へと目覚めてゆく。
男たちの義、女たちの誇り、名家のしがらみの中で、澪が最後に選んだのは――“名を捨てて生きること”。
これは、名もなき光の中で、真実を守り抜いたひと組の夫婦の物語。
静謐な筆致で描く、江戸奥向きの愛と覚悟の長編時代小説。
全20話、読み終えた先に見えるのは、声高でない確かな「生」の姿。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる