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黎明は深呼吸をして、気を落ち着かせる。
「比奈と過ごしていると、いつも心地よくて、ずっと、ずっと一緒にいたいって、思ったんだ。今までの俺に近づいて来るやつらは、いつだって俺個人じゃなくて、将軍の息子っていう肩書きのついた俺が目当てだった」
黎明は自分に近づいてきた者たちのことを思い出しているのか、悔しそうに顔を歪める。
「身分は明かさなかったけど、比奈なら本当の俺を見てくれると思ったんだ」
黎明は比奈を真っ直ぐ見つめる。その眼差しは、すごく慈愛に満ちた色をしていた。
「河原に蛍を見に行ったとき、比奈の笑顔がすごい輝いていて、可愛くて……。そのとき、比奈を苦しめているものから、守りたいって思ったんだ」
「黎明様」
黎明の真摯な態度に、比奈の顔もだんだんと赤く染まっていく。
初々しい二人の様子に、目の前で見せられている神流は、小さくため息をついた。
(前にも、こんなことあったなー)
初めて黎明が家に訪れたときも、同じように二人の世界を作り出していたことを、神流は思い出していた。
(なんで、俺の前でするかな。普通、二人きりでするものだろ。それともあれか? 俺が空気を読んで、そっと抜けるべきか?)
神流は内心で愚痴をこぼしながら、遠くを見つめる。
「あーもう! ごちゃごちゃ言うのやめだ! 比奈!」
「は、はい!」
大声で黎明に呼ばれ、比奈は反射的に姿勢を正す。
「お、俺の、お嫁さんに、なってください!!」
黎明は首元まで赤く染めながらも、視線をそらすことなく、比奈を見つめる。
黎明の本気が伝わり、比奈は心を打たれるが、どうしてもひっかかることがあった。
「黎明様のお気持ちは、とても嬉しいです。でも、わたしは町人ですから……。黎明様とご身分が、釣り合いません」
「それは問題ない」
黎明はきっぱりと断言する。
「比奈の治癒能力のことは、きみが思っている以上に、話題になっているんだ。それで狙われているのなら、保護をするべきではないかということになりつつあるらしい」
「そう、なのですか?」
黎明は頷く。そして照れくさそうに、頬を掻く。
「それで、その、俺が比奈に惚れていることは、兄上に知られていて。その、今日、父上たちにも報告した。んで、父上たちは、結婚に賛成しているんだ」
「つまり、比奈が断っても、黎明様は比奈を嫁にするつもりだったということですか? 比奈の意思を無視して」
黙って聞いていた神流が、刀に手をかける。その瞳は怒りに満ちていた。将軍の息子に対する態度ではないが、神流の優先順位はどうしたって比奈である。妹のためなら、どんなことでもする覚悟を持つ神流に、黎明は慌てた。
「それは違う! 比奈が嫌がったら、俺の加護を与えて、お前たち兄妹が暮らしに困らないように、援助するつもりでいた」
「……」
黎明が弁明するも、神流は鋭く睨む。そんな兄に比奈が声をかけた。
「兄様。黎明様は嘘を申しておりませんよ」
「……はぁ。それはわかってる。ご無礼をお許しください」
刀から手を離し、神流は深く頭を下げた。
「いや。神流が怒るのも無理ないさ。おまえ、比奈のこと大好きだもんな」
「当たり前です」
真顔で肯定する神流に、黎明は苦笑した。そして比奈のほうに視線を戻す。
「それで、比奈。俺は比奈の本心が聞きたい」
比奈は頭の中を整理するように、黙り込んだ。
「比奈と過ごしていると、いつも心地よくて、ずっと、ずっと一緒にいたいって、思ったんだ。今までの俺に近づいて来るやつらは、いつだって俺個人じゃなくて、将軍の息子っていう肩書きのついた俺が目当てだった」
黎明は自分に近づいてきた者たちのことを思い出しているのか、悔しそうに顔を歪める。
「身分は明かさなかったけど、比奈なら本当の俺を見てくれると思ったんだ」
黎明は比奈を真っ直ぐ見つめる。その眼差しは、すごく慈愛に満ちた色をしていた。
「河原に蛍を見に行ったとき、比奈の笑顔がすごい輝いていて、可愛くて……。そのとき、比奈を苦しめているものから、守りたいって思ったんだ」
「黎明様」
黎明の真摯な態度に、比奈の顔もだんだんと赤く染まっていく。
初々しい二人の様子に、目の前で見せられている神流は、小さくため息をついた。
(前にも、こんなことあったなー)
初めて黎明が家に訪れたときも、同じように二人の世界を作り出していたことを、神流は思い出していた。
(なんで、俺の前でするかな。普通、二人きりでするものだろ。それともあれか? 俺が空気を読んで、そっと抜けるべきか?)
神流は内心で愚痴をこぼしながら、遠くを見つめる。
「あーもう! ごちゃごちゃ言うのやめだ! 比奈!」
「は、はい!」
大声で黎明に呼ばれ、比奈は反射的に姿勢を正す。
「お、俺の、お嫁さんに、なってください!!」
黎明は首元まで赤く染めながらも、視線をそらすことなく、比奈を見つめる。
黎明の本気が伝わり、比奈は心を打たれるが、どうしてもひっかかることがあった。
「黎明様のお気持ちは、とても嬉しいです。でも、わたしは町人ですから……。黎明様とご身分が、釣り合いません」
「それは問題ない」
黎明はきっぱりと断言する。
「比奈の治癒能力のことは、きみが思っている以上に、話題になっているんだ。それで狙われているのなら、保護をするべきではないかということになりつつあるらしい」
「そう、なのですか?」
黎明は頷く。そして照れくさそうに、頬を掻く。
「それで、その、俺が比奈に惚れていることは、兄上に知られていて。その、今日、父上たちにも報告した。んで、父上たちは、結婚に賛成しているんだ」
「つまり、比奈が断っても、黎明様は比奈を嫁にするつもりだったということですか? 比奈の意思を無視して」
黙って聞いていた神流が、刀に手をかける。その瞳は怒りに満ちていた。将軍の息子に対する態度ではないが、神流の優先順位はどうしたって比奈である。妹のためなら、どんなことでもする覚悟を持つ神流に、黎明は慌てた。
「それは違う! 比奈が嫌がったら、俺の加護を与えて、お前たち兄妹が暮らしに困らないように、援助するつもりでいた」
「……」
黎明が弁明するも、神流は鋭く睨む。そんな兄に比奈が声をかけた。
「兄様。黎明様は嘘を申しておりませんよ」
「……はぁ。それはわかってる。ご無礼をお許しください」
刀から手を離し、神流は深く頭を下げた。
「いや。神流が怒るのも無理ないさ。おまえ、比奈のこと大好きだもんな」
「当たり前です」
真顔で肯定する神流に、黎明は苦笑した。そして比奈のほうに視線を戻す。
「それで、比奈。俺は比奈の本心が聞きたい」
比奈は頭の中を整理するように、黙り込んだ。
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