暁~双子の冒険者~

岡本梨紅

文字の大きさ
上 下
74 / 104
第五章 ユグルの森

17

しおりを挟む
「……なるほど。リチャード以外にも、継承者はいるわけか。なら、あなたは運がいいってことだね。ファルが前に言っていたように、時計塔広場の事件もリチャードを狙って起きたもの。だけど、たまたま居合わせた私たちが、解決してしまった」

 ファルはその通りだと、夜那の考えに同意する。 

「それで? 結局、王子は俺たちに何をさせたいのですか?」

 夜斗が問いかけると、リチャードは立ち上がって、兄妹に頭を下げた。

「ちょ、殿下!?」

 ファルは、王子であるリチャードが、庶民で流れ者の兄妹に頭を下げたことに驚く。それには二人も目を見開いた。

「頼む! 協力してくれ! おまえたちほどの腕があれば、きっと真犯人を見つけられる。兄上たちの仇をとれる。お願いだ」

 リチャードは切実な声で、頼み込む。
 夜斗は深く息を吐き出し、夜那を見る。夜那も夜斗を見つめ返し、肩をすくめ、視線をそらした。それはすべての判断は夜斗に任せる、という夜那の合図。
 夜斗はもう一度、息をこぼすと主従を見つめた。

「お断りします」
「なっ!」

 リチャードは顔を上げた。彼の顔は驚愕の色に染まっている。

「なん、で……。どうやったら、引き受けてくれる? 金なら、要求通り出す!」
「王子がどんなに頭を下げようが、大金を積まれようが、そのご依頼は受理できかねます」
「だ、だったら! 兵として、傭兵として、二人を雇いたい! その間に、あいつらのことを」
「ただの雇われ兵ごときが、そんなことできると思ってんの?」

 リチャードの言葉を遮って、夜那が冷たく告げる。

「それに、王子暗殺って国がらみじゃないですか。俺たちは、国事情に関わる気はありません」
「ミリテス皇国の内乱には、参戦したのに?」

 突然、第三者が会話に割り込んできた。見知った顔に、リチャードとファルは驚く。

「ロイ!」

 店に入ってきたのはロイだった。彼はまっすぐ四人のもとにやってくる。
 ロイの姿を見て、夜那は目を細める。彼のそばには、風の小精霊ビエントがそばにいたからだ。
 ロイは人付き合いの良さそうな笑みを浮かべて、自己紹介を始めた。

「初めまして。〈剣銃の死神けんじゅうのしにがみ〉君と〈紫金の魔剣士しがねのまけんし〉ちゃん。僕はロイ。そこの二人の仲間で、情報屋をしてるよ。以後よろしくね」
「……なんで俺らのことを、二つ名がついたときのことを、知っているんですか?」

 夜斗は凍てついた瞳で、ロイを睨みつける。

「それはきみの妹、紫金ちゃんなら、わかるんじゃない?」
「は?」

 夜斗は夜那を見る。夜那はロイを見つめたまま、答えた。

「あなた、シルフの<精霊に愛された人間スピリポーマン>だね。ビエントたちに、私たちのことを調べさせたんだよ」
「〈精霊に愛された人間〉?」

 聞き慣れない言葉に、夜斗が首を傾げる。

「大精霊は、人間にほとんど関わることはないけれど、稀に気に入った人間に、自分の加護を与えることがある。加護を与えられた人間は、その属性の魔法のみ使用できるようになり、小精霊たちも協力的になる。そういう人間を<精霊に愛された人間>と呼ぶの」

 夜那の回答に、ロイはにっこりと笑う。

「ご名答! 僕、自分以外に小精霊のことが視える人に会うのは、初めてなんだ」
「おいロイ。まさかそんな話をするためだけに、ここに来たわけじゃねぇよな?」

 リチャードの言葉に、ロイは肩をすくめる。

「当然でしょ。二人にはもちろん、兄妹にも、特に紫金ちゃんに関わりがある情報を、持ってきたんだ」
「ここまで持ってきたということは、急を要する案件なのですね。内容は?」

 ロイの糸目がゆっくりと開き、三白眼をのぞかせる。

「セプスクルクスの頭、<殺戮さつりくのエルマー>が、紫金ちゃんに目をつけた」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

処理中です...