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第五章 ユグルの森
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「……なるほど。リチャード以外にも、継承者はいるわけか。なら、あなたは運がいいってことだね。ファルが前に言っていたように、時計塔広場の事件もリチャードを狙って起きたもの。だけど、たまたま居合わせた私たちが、解決してしまった」
ファルはその通りだと、夜那の考えに同意する。
「それで? 結局、王子は俺たちに何をさせたいのですか?」
夜斗が問いかけると、リチャードは立ち上がって、兄妹に頭を下げた。
「ちょ、殿下!?」
ファルは、王子であるリチャードが、庶民で流れ者の兄妹に頭を下げたことに驚く。それには二人も目を見開いた。
「頼む! 協力してくれ! おまえたちほどの腕があれば、きっと真犯人を見つけられる。兄上たちの仇をとれる。お願いだ」
リチャードは切実な声で、頼み込む。
夜斗は深く息を吐き出し、夜那を見る。夜那も夜斗を見つめ返し、肩をすくめ、視線をそらした。それはすべての判断は夜斗に任せる、という夜那の合図。
夜斗はもう一度、息をこぼすと主従を見つめた。
「お断りします」
「なっ!」
リチャードは顔を上げた。彼の顔は驚愕の色に染まっている。
「なん、で……。どうやったら、引き受けてくれる? 金なら、要求通り出す!」
「王子がどんなに頭を下げようが、大金を積まれようが、そのご依頼は受理できかねます」
「だ、だったら! 兵として、傭兵として、二人を雇いたい! その間に、あいつらのことを」
「ただの雇われ兵ごときが、そんなことできると思ってんの?」
リチャードの言葉を遮って、夜那が冷たく告げる。
「それに、王子暗殺って国がらみじゃないですか。俺たちは、国事情に関わる気はありません」
「ミリテス皇国の内乱には、参戦したのに?」
突然、第三者が会話に割り込んできた。見知った顔に、リチャードとファルは驚く。
「ロイ!」
店に入ってきたのはロイだった。彼はまっすぐ四人のもとにやってくる。
ロイの姿を見て、夜那は目を細める。彼のそばには、風の小精霊ビエントがそばにいたからだ。
ロイは人付き合いの良さそうな笑みを浮かべて、自己紹介を始めた。
「初めまして。〈剣銃の死神〉君と〈紫金の魔剣士〉ちゃん。僕はロイ。そこの二人の仲間で、情報屋をしてるよ。以後よろしくね」
「……なんで俺らのことを、二つ名がついたときのことを、知っているんですか?」
夜斗は凍てついた瞳で、ロイを睨みつける。
「それはきみの妹、紫金ちゃんなら、わかるんじゃない?」
「は?」
夜斗は夜那を見る。夜那はロイを見つめたまま、答えた。
「あなた、シルフの<精霊に愛された人間>だね。ビエントたちに、私たちのことを調べさせたんだよ」
「〈精霊に愛された人間〉?」
聞き慣れない言葉に、夜斗が首を傾げる。
「大精霊は、人間にほとんど関わることはないけれど、稀に気に入った人間に、自分の加護を与えることがある。加護を与えられた人間は、その属性の魔法のみ使用できるようになり、小精霊たちも協力的になる。そういう人間を<精霊に愛された人間>と呼ぶの」
夜那の回答に、ロイはにっこりと笑う。
「ご名答! 僕、自分以外に小精霊のことが視える人に会うのは、初めてなんだ」
「おいロイ。まさかそんな話をするためだけに、ここに来たわけじゃねぇよな?」
リチャードの言葉に、ロイは肩をすくめる。
「当然でしょ。二人にはもちろん、兄妹にも、特に紫金ちゃんに関わりがある情報を、持ってきたんだ」
「ここまで持ってきたということは、急を要する案件なのですね。内容は?」
ロイの糸目がゆっくりと開き、三白眼をのぞかせる。
「セプスクルクスの頭、<殺戮のエルマー>が、紫金ちゃんに目をつけた」
ファルはその通りだと、夜那の考えに同意する。
「それで? 結局、王子は俺たちに何をさせたいのですか?」
夜斗が問いかけると、リチャードは立ち上がって、兄妹に頭を下げた。
「ちょ、殿下!?」
ファルは、王子であるリチャードが、庶民で流れ者の兄妹に頭を下げたことに驚く。それには二人も目を見開いた。
「頼む! 協力してくれ! おまえたちほどの腕があれば、きっと真犯人を見つけられる。兄上たちの仇をとれる。お願いだ」
リチャードは切実な声で、頼み込む。
夜斗は深く息を吐き出し、夜那を見る。夜那も夜斗を見つめ返し、肩をすくめ、視線をそらした。それはすべての判断は夜斗に任せる、という夜那の合図。
夜斗はもう一度、息をこぼすと主従を見つめた。
「お断りします」
「なっ!」
リチャードは顔を上げた。彼の顔は驚愕の色に染まっている。
「なん、で……。どうやったら、引き受けてくれる? 金なら、要求通り出す!」
「王子がどんなに頭を下げようが、大金を積まれようが、そのご依頼は受理できかねます」
「だ、だったら! 兵として、傭兵として、二人を雇いたい! その間に、あいつらのことを」
「ただの雇われ兵ごときが、そんなことできると思ってんの?」
リチャードの言葉を遮って、夜那が冷たく告げる。
「それに、王子暗殺って国がらみじゃないですか。俺たちは、国事情に関わる気はありません」
「ミリテス皇国の内乱には、参戦したのに?」
突然、第三者が会話に割り込んできた。見知った顔に、リチャードとファルは驚く。
「ロイ!」
店に入ってきたのはロイだった。彼はまっすぐ四人のもとにやってくる。
ロイの姿を見て、夜那は目を細める。彼のそばには、風の小精霊ビエントがそばにいたからだ。
ロイは人付き合いの良さそうな笑みを浮かべて、自己紹介を始めた。
「初めまして。〈剣銃の死神〉君と〈紫金の魔剣士〉ちゃん。僕はロイ。そこの二人の仲間で、情報屋をしてるよ。以後よろしくね」
「……なんで俺らのことを、二つ名がついたときのことを、知っているんですか?」
夜斗は凍てついた瞳で、ロイを睨みつける。
「それはきみの妹、紫金ちゃんなら、わかるんじゃない?」
「は?」
夜斗は夜那を見る。夜那はロイを見つめたまま、答えた。
「あなた、シルフの<精霊に愛された人間>だね。ビエントたちに、私たちのことを調べさせたんだよ」
「〈精霊に愛された人間〉?」
聞き慣れない言葉に、夜斗が首を傾げる。
「大精霊は、人間にほとんど関わることはないけれど、稀に気に入った人間に、自分の加護を与えることがある。加護を与えられた人間は、その属性の魔法のみ使用できるようになり、小精霊たちも協力的になる。そういう人間を<精霊に愛された人間>と呼ぶの」
夜那の回答に、ロイはにっこりと笑う。
「ご名答! 僕、自分以外に小精霊のことが視える人に会うのは、初めてなんだ」
「おいロイ。まさかそんな話をするためだけに、ここに来たわけじゃねぇよな?」
リチャードの言葉に、ロイは肩をすくめる。
「当然でしょ。二人にはもちろん、兄妹にも、特に紫金ちゃんに関わりがある情報を、持ってきたんだ」
「ここまで持ってきたということは、急を要する案件なのですね。内容は?」
ロイの糸目がゆっくりと開き、三白眼をのぞかせる。
「セプスクルクスの頭、<殺戮のエルマー>が、紫金ちゃんに目をつけた」
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