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第五章 ユグルの森
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「なんか、追い出したみたいで、悪いことしたな」
「あの二人は、本当にいつもいますから、お気になさらず。あ、夜那! シュークリーム全部食べやがったな!」
「おいしかった」
指についたカスタードクリームをぺろりと舐めながら、夜那は感想をこぼす。
「甘いものばかり食べてたら、身体に悪いだろうが。太るぞ」
「太らない体質だから、大丈夫」
夜斗が腰に手を当てて文句を言うも、夜那は意に介しない。
「まったく。あぁ、席にどうぞ。飲み物はロッソでよろしいですか?」
「おう。ありがとな」
夜斗に言われて、リチャードとファルは、もはや定位置となった席についた。
夜斗は二人のロッソを用意し、夜那はキャスたちの皿を片付ける。
そして、兄妹が自分たちの前に座ると、ファルが袋を取り出した。
「では、報酬金は昨日おっしゃっていた通り、十五万ギルです」
夜斗はファルから報酬金が入った袋を受け取り、中を確認する。
「はい。たしかに」
「さて。こちらと致しましては、報酬金さえいただければ、もう用はないのですが……そちらはまだなにかあるようですね?」
夜斗の探るような目に、リチャードは苦笑をもらした。
「察しがよくて助かる。昨日捕まえた盗賊が、情報をはいた。壊滅に至ったのは、魔物に襲われたせいもあるが、頭と幹部連中が突然、襲いかかってきたらしい。生きてた奴は、なんとか逃げた。または、虫の息だったところに俺らが来たってわけだ」
「やっぱり、捨て駒だったんだ」
夜那の呟きに、ファルが頷く。
「しかし、目的がわからないんです。それに頭の名前も、怯えた顔をして、『言ったら殺される!』の一点張りで」
「セプスクルクスの頭の名前は、エルマーという名前ですよ」
「「は?」」
夜斗の言葉に、リチャードとファルが、ぽかんとした表情になる。
夜斗は自分のロッソに口をつける。
「前に、俺たちがこの街に来たときに襲われたことを、お話しましたね? そのときに、相対したやつが言っていたのですよ。『エルマーのお頭率いるセプスクルクスだ』とね」
「エルマーって、もしかしてあの?」
「だとしたら、厄介かつ危険が伴いますね」
主従が顔を見合わせ、何事か相談しあう。だが、兄妹はわけがわからず、話を進める。
「それで、あなたの目的はなんなの? 盗賊団の壊滅をさせ、頭の首を持ってこいってこと?」
「そんなことっ! あ、いや。ある意味、似たようなことかもしれないな……」
リチャードは、黙り込んだ。それをファルが心配そうに見る。
「殿下、よろしければ私が」
「いや。大丈夫だ」
リチャードは深呼吸して気持ちを整え、真剣な眼差しを兄妹に向ける。
「俺には二人の異母兄がいた。事故と病死という扱いだが、兄上たちがご逝去なされたとき、どちらにも十字に二匹の蛇が巻き付いた入れ墨をしている者たちがそばにいたのを、俺は見ている。今回捕らえた盗賊にも、それがあった」
「つまり、盗賊団セプスクルクスによる暗殺を、疑っているわけですね」
夜斗の言葉に、リチャードは肯定する。
「ですが我々としては、たかが盗賊団ごときが、王子暗殺という大それたことを、企てるとは思えないのです。いくらなんでも、デメリットが大きすぎる」
夜那はファルの考えに納得しつつ、首をかしげる。
「たしかに。王子を殺したってことは、継承問題でしょ? 三人の王子がいるなかで、リチャードだけが生き残っているのなら、リチャードを国王にしたい人間の仕業じゃないの?」
夜那が王族ではよくある問題を口にするが、リチャードは首を横に振った。
「俺も小さい頃から、殺されかけてる。ただ、ファルや兄上たちが、守ってくれていただけだ」
「あの二人は、本当にいつもいますから、お気になさらず。あ、夜那! シュークリーム全部食べやがったな!」
「おいしかった」
指についたカスタードクリームをぺろりと舐めながら、夜那は感想をこぼす。
「甘いものばかり食べてたら、身体に悪いだろうが。太るぞ」
「太らない体質だから、大丈夫」
夜斗が腰に手を当てて文句を言うも、夜那は意に介しない。
「まったく。あぁ、席にどうぞ。飲み物はロッソでよろしいですか?」
「おう。ありがとな」
夜斗に言われて、リチャードとファルは、もはや定位置となった席についた。
夜斗は二人のロッソを用意し、夜那はキャスたちの皿を片付ける。
そして、兄妹が自分たちの前に座ると、ファルが袋を取り出した。
「では、報酬金は昨日おっしゃっていた通り、十五万ギルです」
夜斗はファルから報酬金が入った袋を受け取り、中を確認する。
「はい。たしかに」
「さて。こちらと致しましては、報酬金さえいただければ、もう用はないのですが……そちらはまだなにかあるようですね?」
夜斗の探るような目に、リチャードは苦笑をもらした。
「察しがよくて助かる。昨日捕まえた盗賊が、情報をはいた。壊滅に至ったのは、魔物に襲われたせいもあるが、頭と幹部連中が突然、襲いかかってきたらしい。生きてた奴は、なんとか逃げた。または、虫の息だったところに俺らが来たってわけだ」
「やっぱり、捨て駒だったんだ」
夜那の呟きに、ファルが頷く。
「しかし、目的がわからないんです。それに頭の名前も、怯えた顔をして、『言ったら殺される!』の一点張りで」
「セプスクルクスの頭の名前は、エルマーという名前ですよ」
「「は?」」
夜斗の言葉に、リチャードとファルが、ぽかんとした表情になる。
夜斗は自分のロッソに口をつける。
「前に、俺たちがこの街に来たときに襲われたことを、お話しましたね? そのときに、相対したやつが言っていたのですよ。『エルマーのお頭率いるセプスクルクスだ』とね」
「エルマーって、もしかしてあの?」
「だとしたら、厄介かつ危険が伴いますね」
主従が顔を見合わせ、何事か相談しあう。だが、兄妹はわけがわからず、話を進める。
「それで、あなたの目的はなんなの? 盗賊団の壊滅をさせ、頭の首を持ってこいってこと?」
「そんなことっ! あ、いや。ある意味、似たようなことかもしれないな……」
リチャードは、黙り込んだ。それをファルが心配そうに見る。
「殿下、よろしければ私が」
「いや。大丈夫だ」
リチャードは深呼吸して気持ちを整え、真剣な眼差しを兄妹に向ける。
「俺には二人の異母兄がいた。事故と病死という扱いだが、兄上たちがご逝去なされたとき、どちらにも十字に二匹の蛇が巻き付いた入れ墨をしている者たちがそばにいたのを、俺は見ている。今回捕らえた盗賊にも、それがあった」
「つまり、盗賊団セプスクルクスによる暗殺を、疑っているわけですね」
夜斗の言葉に、リチャードは肯定する。
「ですが我々としては、たかが盗賊団ごときが、王子暗殺という大それたことを、企てるとは思えないのです。いくらなんでも、デメリットが大きすぎる」
夜那はファルの考えに納得しつつ、首をかしげる。
「たしかに。王子を殺したってことは、継承問題でしょ? 三人の王子がいるなかで、リチャードだけが生き残っているのなら、リチャードを国王にしたい人間の仕業じゃないの?」
夜那が王族ではよくある問題を口にするが、リチャードは首を横に振った。
「俺も小さい頃から、殺されかけてる。ただ、ファルや兄上たちが、守ってくれていただけだ」
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