暁~双子の冒険者~

岡本梨紅

文字の大きさ
上 下
7 / 104
第一章 双子の兄妹

しおりを挟む
 夜那はもといた場所に座り直しながら、積み荷に目を向けた。蓋代わりに使われている薄布をめくると、上質で美しい装飾の布の束が入っていた。

(庶民が使うには、生地が良すぎるな。模様も派手だし。となると、商売相手は貴族かな。だから、仲間と行きたくなかった。でも護衛は欲しい。そこで二人組の私たちに声をかけた……。まぁ、なんでもいいか)

 夜那は興味を失い、布を元に戻すと寝る体勢になった。しかし、そんな夜那の前髪を、そよ風が揺らす。彼女が目を開けると、緑色の球体が目の前に浮かんでいた。

『魔物がきたよ』

「……ん。知らせてくれてありがと、ビエント」

 風の大精霊シルフの眷属、風の小精霊ビエントに夜那は礼を述べた。するとビエントはふわりと、姿を消す。夜那はため息をついて立ち上がると、ロングソードを手に取り、御者台に顔を出した。

「イザナさん。念のため、中にいて。魔物がくる」
「魔物!?」

 さあっとイザナの顔が青くなる。

「大丈夫。結界を張るから、被害が出ることはないよ。でも、魔物を直接見るよりも、中にいたほうが、精神への負担も少ないと思うから」
「は、は、はいぃぃぃ!!」

 イザナは転がるように、荷台の中に逃げ込んだ。飼い主であるイザナの恐怖を感じ取ったのか、荷馬車を引いている馬がいななく。
 夜那は馬の傍らに立ち、手綱を持ちながら、首筋を撫でてやる。

「大丈夫だよ、大丈夫。落ち着いて」

 鼻息を荒くしていた馬は、夜那の言葉で、徐々に落ち着きを取り戻していく。

「いい子だ。これから魔物がくる。けど、怯える必要はないよ。君に危害が行くことはないからね」

 馬は、わかったとでも言うように、夜那に顔を寄せた。
 夜那は最後に馬の鼻先を撫でてから、そばを離れる。

「清らかなる聖なる水よ。悪しきモノより我らを守る膜とならん。水聖守護方陣すいせいしゅごほうじん

 ぽちゃん

 水面に雫が落ちるような音が聞こえたと同時に、荷馬車を水の膜が包み込む。
 
 すると遠くから、ドスン、ドスンと地響きのような足音が、だんだんと近づいてくる。やがて、足音の正体が姿を現す。

「キシャアア!!」

 獲物を見つけたカマキリ型の魔物、マグリースが威嚇の声を上げる。それを聞いて、夜那はわずかに口角をあげた。

「さて。仕事の時間だ」

 夜那の瞳は紫から金へと代わり、勢いよく剣を抜き放った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

処理中です...