逢魔が時。それは人と人ならざるモノたちが出逢う時

岡本梨紅

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電話ボックス

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 走り出した美代をみて、愛華はきょとんと目を丸くする。

「美代ちゃん、どうして逃げるの? 逃げると、追いかけたくなっちゃうじゃない。アハハハハッ!」

 愛華は笑いながら、美代を追いかけて走り出した。愛華の顔は笑っているのに、怒りと憎しみに満ちた悪魔のような顔をしていた。
 背後から愛華の高笑いを聞いて、美代はよりいっそう、恐怖で目の前が暗くなるようだった。

(逃げなきゃ、逃げなきゃ! でも、どこへ? 家に帰っても、きっと愛華先輩は無理やりにでも、入ってこようとする。そうすれば、きっと家族が傷つけられるかもしれない! 学校へ逃げる? 無理だ。きっと途中で捕まっちゃうし、この時間に戻っても閉まってる! じゃあ、人がいるほうへ? 本当にそれで逃げられる?)

 美代の頭の中にさまざまな考えが浮かんでは消える。

(このままじゃ私、愛華先輩に殺されちゃう!!)

 その時、視界のすみに公園が目に入った。そこで美代は思いつく。

(そうだ! 電話ボックス!!)

 今は夕方。この時間であれば、美代がいつも愛華に嫌がらせでケガをさせるように願うために使っている電話ボックスが、茂みの奥に出現しているはずだった。
 美代はすがるように公園の中に入る。

「あれ~? 美代ちゃん、どこ行くの~。待ってよ~」

 愛華の間延まのびした甘ったるい声は、美代の恐怖心をひどくあおる。

(はやく、早く! はやく!!)

 茂みを抜けた先には、いつものように電話ボックスがたたずんでいた。
 美代はあわてて中に入り、受話器を手に取る。

 ダンッ!!

「きゃあ!」

 ガラス戸を割らんばかりの勢いで、追いついてきた愛華が叩く。

 ガチャガチャッ!!

「なんで開かないのよ。ねぇ、美代ちゃん? ここ、開けてよ。あたしとちょっとお話しましょ?」
「い、いや……」

 美代は受話器を握りしめたまま、恐怖で震える。

「開けてよ。開けなさいよ! 開けろっていってんでしょ!!」

 愛華は鬼のような形相で、ガラス戸をガチャガチャと引っ張り、ドンドンと激しく叩く。
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